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マウント? 2
「相変わらず面白いことをやろうとしてるみたいだネ」
ノエルは、弾けるように席を立つと、ニックに近付いた。そして、両手を広げて黒いマントの男とハグをする。
エミンはちょうどお茶を飲んだところで、2人の抱擁を見てゴホっと咳き込んだ。
コニーは口を開けてポカンと2人を見ている。
パラビナ王国では、恋人や配偶者とハグをすることはあっても、友達同士で挨拶の意味で抱き合う文化はない。親でさえも子供が小さい時だけで、大人になってからはしないのが一般的だった。
「ニック…!!どうして立入制限区域 に?」
「さて、どうしてだと思う?」
ニックは、ノエルの質問には答えず、不敵に微笑んだ。
「ちょっと…ノエルっ…この人誰なの…?」
コニーが堪らずノエルに尋ねる。
「あっ、ごめん。王立魔術師団学校時代のルームメイトで同じ星島 出身のニック・ハーヴィ。魔術士で、王立魔術研究所の研究室で働いてるんだ」
す
ノエルはニックとの抱擁を終わらせ、ニックを紹介した。そしてニックにもコニーとエミンの2人の名前を伝える。
「どうも~深緑のマントをつけているということは、治療士さんかな?ウチの…ノエルちゃんがいつもお世話になってマス」
「…はぁ、まぁお世話してるけど…」
「…どうも…」
ニックは細目をさらに細くして微笑んでいる。表情が読めず、コニーとエミンは不信感を抱かざるを得ない。
「職場でうまく行ってるみたいで良かった。武器収容庫の扉を吹っ飛ばした治療士がいるって、絶対ノエルちゃんだと思ったんだ~周りから浮いちゃってないか心配してたんだヨ?」
ニックは、からかうような軽い口調でノエルに話しかける。
「どうして…扉のこと……あっ!あの扉の新しい鍵の魔法陣、やっぱりニックが…!?」
「正解♪研究室を代表して現場をみてくるように言われたんだ。…もう簡単には突破できないよ」
ニックはにやりと笑う。ノエルはやっと謎が解けてすっすきりしたと共に、やっぱりこの友人は底が知れないなと思う。
学生時代から、ニックは先生すらも解読できないような複雑かつ巧妙な魔法陣を作成する能力を備えていた。
深窓とよばれ、タースルの王立魔術師団学校で遠巻きに見られていたノエルだったが、偶然同室だったニックだけが対等に自然に話してくれていた。
「それで…この衣装を着てノエルちゃんは何するの?」
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