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白い幻獣 1
「3人とも準備はいい?」
ベテラン治療士に尋ねられ、ノエル・リンデジャック、コニー・ユーストマ、エミン・グスタフは互いに目を合わせて頷いた。
魔物討伐統合部隊の拠点にある食堂で、明日から発動される特別機動部隊に向け、壮行会が開かれた。
食堂内にはステージと宴席が設けられ、明日から出発する隊員達を中心に、お酒や食事が振る舞われる。1000人程の隊員達が、今日ばかりは無礼講でリラックスして談笑しながら寛いでいた。
新人隊員は壮行会で出し物をするのが恒例となっており、特に優れた企画については、激励賞として、報奨や特別休暇が贈られることになっている。
評価をするのは、隊長をはじめとした役付の隊員達で、職種に拘らず審査をすることが原則で、特に場を盛り上げた企画にポイントが多く配点されるという。
新人魔術騎士、新人魔術士の出し物が終わり、いよいよノエル達新人治療士の出番となった。
「いけるよ…君たちの企画の方が盛り上がること間違いなしだっ!!」
企画の演出や、音楽、道具の用意等手伝ってくれた治療士の1人が、ノエル達3人にそう声をかける。
一番最初に披露した、新人魔術騎士の出し物は、主に力自慢をする内容で、上半身裸になった新人魔術騎士が、大きな鉄の塊を持ち上げたり、アクロバットで数人がクルクルと跳んだり跳ねたりするものだった。
その次の出番となった新人魔術士達は、手作りの楽器で演奏し、曲に合わせて数人が歌う演目となっていた。派手さには欠けていたものの、歌い手が中々の腕前であった為、会場は相応に盛り上がっていた。
「衣装も、僕達が一番可愛いねっ」
コニーはくるっと回って軽くウィンクをする。
ノエルは、両手をぎゅっと握っては開いてを繰り返す。先ほどのランドルフとの『魔力の交換』によって、自分の中に、いつもよりも大きな魔力があるのを感じていた。普段の自分の身体とは違う感じがする。
その様子をみて、エミンはノエルに声をかける。
「練習通りにすれば、大丈夫だよね」
「あっ、うん。ごめん、ぼーっとしちゃって」
「もー!ノエルったら緊張してるのぉ?ほら、手だして」
コニーはそう言いながら、エミンとノエルの手を合わせる。そして、その上に自分の手を重ね合わせると、掛け声をかけた。
「頑張るぞ~!!おー!」
コニーの明るい掛け声に、ノエルもエミンも笑顔になり「おー!」と声を出す。
「今から音楽を流すから、ユーストマ君とグスタフ君の2人からステージに出てね」
準備をしていたベテラン治療士にそう声をかけられたと同時に、テンポの良い曲がかかる。
コニーとエミンが2人でステージに出ていく。ノエルは少し遅れて登場することになっていた。ステージ袖で2人を見守る。
「最後の出し物は、話題の新人治療士3人組による治療魔術のイリュージョンショーです!!」
壮行会の司会の声が食堂に響き渡る。
コニーとエミンがステージに登場すると、会場におおっという歓声が起こる。
ステージの真ん中には、小さいな台が用意され、その上にはにガラスでできた大きな球型の丸いボウルが置かれている。
コニーとエミンはステージの両端に立って、治療魔術を唱えると、2人の手からリボン状の白い光が放出された。
シュルシュルと2本のリボン状の光がステージ状で交差する。光がぶつかり合う度に小さな光の粒がキラっと舞う。
治療魔術は普段こんな形状の光を出すことはないため、会場からは「おお~!」という歓声が上がっていた。
コニーとエミンは、次に、水の泡の形をした光を大量に作り出した。
ステージ上は、一瞬でバブルの光に包まれる。
「リンデジャック君、今だ!」
ステージ袖にいたノエルに、ベテラン治療士達が声をかけた。
ノエルは、キャンディケインの形をしたステッキを片手に持ち、ステージに上がる。
泡状の光が少なくなったタイミングで、ヒラヒラしたミニスカートを履いたノエルがステージの真ん中に現れると、会場は益々歓声に包まれた。
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