61 / 63

白い幻獣 3

ノエルが作り出した白い光は、あくまでも治療魔術である。本物の鳥を作り出したわけではない。 しかし、白鷺火の形をした光をよく見ると、頭や目、羽など、以前練習のために出した時より、輪郭や細部の羽毛までよりはっきりと見える。 すると、白鷺火の形をした光が、ノエルの瞳を捉えた。 「――今っ、目があった…!?」 視線が合ったことで、いつもと違う光だと確信したノエルは驚きの声をあげる。 そして、白鷺火の光は、バサッと大きな羽を広げてさらに高く宙を舞った。 観客はその様子を見て、まるで本物のようだと驚きと感激の声をあげる。 「――ノエル?羽を広げる想定なんてあった?」 エミンは、心配そうにノエルに声をかける。 「何かいつもと違うんだ…もう、終わらせ…」 ――キキキィーーーーー!! ノエルが白鷺火の光を終わらせるため魔術を唱えようとした時、白鷺火は突然甲高い声を出した。 「何~この音!?」 頭上にいる白鷺火の鳴き声に、コニーは驚き耳を手で防ぐ。 まさか、治療魔術で作り出した光が生き物のように意思を持って勝手に動くなんて…信じられない気持ちで、ノエルは魔術を終わらせようと、白鷺火の光に向って魔術を唱えた。  しかし、それよりも白鷺火の動きの方が素早かった。ノエルの魔術をひらりと躱すと、ステージから観客側に飛び出していく。大きな羽音が、会場中に鳴り響いた。 驚きと、感嘆、そして、恐怖が入り混じった声が会場中を埋め尽くす。ステージ上にいるコニーとエミン、それからステージ袖に居た治療士達も、明らかに想定と異なる動きをする光の様子に戸惑う。 「終わらせようとしてるのに気づいて魔術を避けた…?」 ノエルは驚いてそう呟くと、今度こそ魔術を当てるつもりで、観客の頭上を舞う白鷺火を見据える。 ノエルの視線に気がついた白鷺火は、ノエルをじっと見つめると、ぱちんとウィンクをした。 「――えっ!?」 もはや、ただの光と思えない白鷺火の行動にノエルが不意を突かれ、一瞬気を緩めてしまった時だった。 白鷺火はさらに大きく羽ばたき、食堂の天井近くの採光用に設置された窓の一つに向って飛んでいく。 「嘘っ…!?」 ――――パリーンっ!! 白鷺火は、窓ガラスをくちばしで割ると、そのまま外に飛び出して行ってしまった…。

ともだちにシェアしよう!