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白い幻獣 4

「…壮行会で魔術使用の許可はしたが、食堂の窓ガラスを割って良いという許可まで出した覚えはないんだが…」 魔物討伐第3部隊隊長メイ・ホルンストロームは、ルビー色の瞳で、じろりとノエルを睨めつける。 「…申し訳ありません…」 壮行会は、白鷺火の形をした光が、突然窓ガラスを破って外に出ていった騒動で幕を閉じた。 割れた窓ガラスは、咄嗟にその場に居た隊長達が、防護魔法を施したおかげで、隊員達には当たらず、怪我人は出なかった。 観客側の隊員のほとんどは、この騒動を出し物の演出の一部と受け取り、なかなか過激なラストで楽しめたと口にしていた。 そして、ノエルは再び、討伐統合部隊の施設の一部を破壊した実行者として、討伐第2部隊隊長リッツェン・ロイスタインの執務室に連行された。 執務室には他に、討伐第1部隊隊長のランドルフ・ヴィクセン、随行としてイスタ・エイブラムス、リッツェンの側近で魔術士でもあるフェルナン・ルシアノも居る。 「メイ隊長の言う通りですよ。リンデジャック、あなたは何度施設を破壊すれば気が済むのか…」 フェルナンが、丸い眼鏡のフレームを押さえながらため息をつく。 ノエルは気不味そうに「重ね重ね申し訳なく…」と小さくなって謝る。これでフェルナンのノエルへの風当たりは、一層強くなりそうだ。 「怪我人もでなかったし、破壊といっても窓が1枚割れただけだろう。そうノエルを虐めないでやってくれ」 ランドルフは、メイとフェルナンにまあまあと声をかける。 その様子に、何か引っ掛かりを感じたリッツェンは、ランドルフに尋ねる。 「ランド…その余裕……何か知ってるのかな?」 リッツェンは、微笑みながらランドルフとそれからノエルに視線を向けた。ノエルは背中をぞくりと震わせる。前にも感じた悪寒が背筋に走った。 「えっと…今回のことは、その…想定外のことが起きたというか…あんな光を作り出すつもりは無くて」 「俺、結構近くでノエルさんのこと見てましたけど、白鷺火の光のディテールがすごくて…本物の鳥のように動いてましたよね?すごかったです」 イスタが、ノエルの作り出した白鷺火を思い出して感想を漏らす。 「3人の新人治療士の力が合わさっていたとはいえ、最後の白鷺火を作り出したのは、お前の魔術なんだろ?」 メイは、そう言ってノエルに視線を向ける。 「あれほどの大きな光の鳥を作り出すには、相応の魔力が必要です。でも、今のリンデジャックを見ても、それほど魔力を消耗している様子もない」 フェルナンはそう言うと、魔力枯渇状態になっていないノエルの姿に、首をかしげる。 「――ノエル、どういうことかな?話してごらん」 リッツェンは、優しく微笑みながらノエルに尋ねた。リッツェンの得体の知れない圧が、ノエルの口を割る。 「えっと…それは…壮行会直前に、ランドルフ隊長の執務室で…」 「――ノエルっ!何もこんなところで言わなくても…」 ランドルフは、慌ててノエルを止める。しかし、この場にいたランドルフ以外の全員はそれを許さなかった。 1番気の短いメイが、ノエルに命じる。 「いいから、早く言え」 「『魔力の交換』に慣れるためって…キスと…それから…」 「キス以外の何をしたのかな?」 言い淀んでいるノエルに、リッツェンは先を促した。もはや目は笑っていない。ノエルは思わず、ひっと息を飲む。 「こっ、口淫をされて…その………飲まれました…」 『何を?』と聞かなくても、その場にいた者たちは、ランドルフがノエルの何を飲んだのかを察した。 ランドルフは「言っちゃうかぁ…」と呟き片手で額を押さえた。

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