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Cp4.紗月(男ver)×清人『初恋の人①』

 高校進学と同時に入職した特殊係13課は、想像通りの場所だった。  陽人から散々話を聞かされていたから、思いつく限りの術を覚えて入った。  案の定、同じ年齢で自分より長けた術者には会わなかった。  それどころか下手な大人の術者に比べたら、清人の方が何倍も優秀だった。 「特殊係も、この程度か」  そんな清人の鼻っ柱をへし折ったのは、霧咲紗月だ。  のちに人類最強と評されるこの女は、13課入職当時から最強であったらしい。  高校二年生の時から教育係をしてくれている紗月に、清人は一度も勝ったことがなかった。  間違いなく13課最強である紗月が誰ともバディを組まずにアルバイトをしている理由は、知らない。  けれど、いつか自分が紗月のバディになる。  それが清人の目標だった。  恐らく以前からあったのであろう淡い恋心を自覚したのは二十二歳、清人が大学四年生の時だ。  紗月と出会ってから六年も経っていた。  告白など考えていなかった。しかし、しておけばよかったと強く後悔した。  反魂儀呪の大きな儀式で英里が死に、優士が霊元を壊され、紗月と陽人が死にかけた。  あの事件以降、紗月は13課から距離をとった。  それからは、会う回数自体が減った。  教育係として毎日のように顔を合わせていた頃が、嘘のようだった。  相沢量に出会ったのは、そんな頃だった。  出会いは偶然、それどころかテンプレ、いやベタだった。  軒下で雨宿りしている量に、清人が声をかけたのがきっかけだ。  やけに端正な顔をしたその男は、一般的に見てもイケメンの類に入るのだろう。  何より纏う気が清人を強く惹きつけた。 「傘、ないなら、これどーぞ。俺、家近いからあげますよ」  声をかけると、男はやけに慌てた素振りを見せた。 「あー、いや。大丈夫。適当に走るから」  照れているのか困っているのかわからない顔を眺めて、何故か紗月を連想した。  走り出そうとした男の腕を掴んで傘を手渡す。 「悪いと思うなら、返してください。ついでに連絡先、教えてください」  出会いのきっかけが欲しくて声をかけたわけだから、受け取ってもらわないと困る。  下心しかない声掛けなのは、伝わっていると思ったのに。  男が気まずい顔で清人を振り返った。 「嫌ならせめて、名前、教えてください」  自分としては食い下がった方だ。  男が諦めたように息を吐いた。  正面に向き直り、大型ディスプレイに流れているアイドルグループの新曲デモを眺めた。 「……相沢、量」  男が発した名前は、今まさにディスプレイの中で踊っているアイドルのセンターの男の子の名前だ。  偽名にしても、もう少し頭を捻ってほしい。  この感じは脈もなさそうだ。 「量さんね。じゃ、傘、あげますよ」  清人は傘を手渡すと、走り出した。 「ちょっ、ねぇ、き……君!」  声をかけられて、振り返る。 「明日、もし明日、同じ時間に、ここでまた会えたら、連絡先、いや、傘、返すよ」  泣くように笑うと、量が傘をさして反対方面に歩いて行った。 「ちょっとは脈アリかな」  ぽつりと呟いて、清人は駅に走った。  男に惚れたことは、人生で一度もない。  というより、紗月への恋心を自覚したばかりだ。きっと自分はノンケなんだろうと思っていた。  けれど、量には一目惚れだった。  あのまま二度と会えなくなるのは嫌だと思った。理由は、よくわからない。  恋なんて、そんなもんだろうと思う。  例えば、量がノンケでもいい。また会って話しがしてみたかった。  次の日の同じ時間、同じ場所に、量がいた。  律儀に貸した傘を持ってきている。今日は一日中、晴れていたから邪魔だったろうなと思う。 「やぁ、本当にきたんだ」  ちょっと驚いた顔をされてしまった。  それもそうかと思う。  ナンパ的な誘いを次の日に持ち越して、来るとも思わないだろう。  どちらかというと量が来た事実の方が清人的にはびっくりだが。 「傘、持ってきてくれたんすね。わざわざ、どーも」 「これを返すのが目的だからね。そりゃ、持ってくるよ」  笑った顔が、どうにも紗月に見える。  どうしてこうも自分の心は紗月に囚われているんだろうと、つくづく嫌気がさす。 「連絡先だっけ? 俺の連絡先なんか知って、どうするの?」  量がスマホを取り出した。  その手を、そっと握る。 「俺、量さんとキスしてみたい」 「……へ?」  清人の呟きに、量の動きが止まった。 「俺の発言、キモい? 嫌だったら、もう会わなくていい。けど、量さんと、キス以上もしてみたい」  俯いたまま、返事を待った。  突然、こんなことを言い出す初対面の男なんか、キモイに決まっている。  ダメならきっぱり諦めようと思った、量も、紗月も。  何故か、そう思った。  掴んだ清人の手を引いて、量が耳元に唇を寄せた。 「なんで俺がゲイだって気が付いたの? もしかして俺のこと、知ってた?」  驚きながら、清人は首を振った。 「知ら、なかった。俺、男の経験ないし。ただ、量さんが好みで、声掛けただけ」  顔を上げたら、唇が重なった。  初めて男とキスした。というか、女だってノリで何回か彼女を作った程度で、経験豊富なわけでもない。 「初めて、俺でいいの? いいなら、男の気持ち良さ、教えてあげるけど」  腰を抱かれて引き寄せられる。  量の股間は既に熱くて硬い。つられて、清人の股間も反応する。 「シたいなら、名前、教えて」  吐息を吹きかけられて、耳が熱い。 「……清人。藤埜、清人、です」  声を飲み込むように口付けられる。  唇を貪る唇が熱くて、溶けそうだった。  口内に入り込もうとした舌が、唇を舐めて離れた。 「おいで。後悔するくらい、気持ち善くしてあげるから」  囁いて、量が清人の手を引いた。  引き摺られるように、清人は歩き出した。

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