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Cp7.護×直桜『唯一の魔酒②(直桜目線)』
地下六階の解析・回復本部で、直桜は朽木要と垣井穂香に新年の挨拶をしていた。
「今日は一人かい? 忠犬はお留守番かな?」
要の揶揄いに、直桜はじっとりとその顔を眺めた。
「通過儀礼って話だけど、内容が内容だから護は一緒じゃない方がいいって清人がね。俺も、そう思う。てか、律姉さんじゃなくて残念だったね、要」
べっと舌を出して見せる。
要が可笑しそうに笑った。
毎年、13課では旧暦の正月に合わせて梛木の木札を各部署に配る。梛木の空間術の補強らしい。
配布は惟神の仕事らしく、木札を配った先の統括に神力で祝福を分け与える。
今までは律の仕事だったらしいが、今年は直桜にもお鉢が回ってきた。初めてなので、半分は律が受け持ってくれている。
その律は、自分の部署である怪異対策室と、霊・怨霊担当、諜報・隠密担当、オカルト担当に出向いている。副長官室も律に担当してもらった。
「私は直桜で十分、満足だよ。さぁ、うるさい御付が来る前に済ませてしまおうか」
要が直桜の腕を引く。
蒼褪めながら、直桜が身を捩った。
「その前に、ハイ。木札、受け取ってよ。じゃないと、意味ないだろ」
梛木の神力が籠った木札に、直桜は口付けた。
直桜の神力が梛木の神力と混ざり合って金色の光を発する。
木札を要に差し出した。
「確かに受け取ったよ。それで? どこにしてくれるんだい?」
要が大きな胸を前に出し、ちらりと服をはだけさせた。
どこ、と問う意味がない。
「要統括、流石に破廉恥ですよ。化野さんじゃなくても怒ります」
隣に立つ垣井穂香がプンスカ怒っている。
この場に穂香がいてくれて本当に良かったと思った。
今年は新部署の開設や部署変更などで移動も多かったので、室長にも統括と同じように祝福を分け与える。
垣井穂香は解析室の室長に就任しているから、今年は穂香にも祝福を与えるため、同席している。
「別にいいよ。俺、女の人の胸で欲情しないし。胸で、いいの? 右? 左?」
「知っているよ。だから差し出しているのさ。左が良いな。心臓にも霊元にも近い」
要が指さす左の胸に、直桜は唇を押し当てた。
霊元と直霊に向かい、神力を流し込む。
要の顔が、うっとりと紅潮した。
「律より濃い神力だ。直桜は何ともなくても、私は興奮するね」
要の指摘通り、霊元も直霊も心臓に近い場所にある。
神力を吹き込む場所としては、間違いではないのだが。
「清人には左手の薬指で良いって教えてもらったけどね。律姉さんは、要にはきっと胸って言われるって教えてくれたよ」
呆れる直桜に、要が満足そうに頷いた。
「律は毎年、胸にしてくれていたよ。直桜も覚えておいておくれ」
来年からも要の胸にキスしないといけないのなら、やっぱり護は連れてこられないなと思った。
「穂香は、指で良い?」
「はい、勿論です」
穂香が左手を差し出す。
薬指の根元に唇を押し当てて、神力を流し込んだ。
「穂香は、こっちもだね」
穂香の胸に手を伸ばす。
ネックレストップを指で何度か馴染ませて、口付けながら神力を籠めた。
顔を上げると、穂香が頬を赤らめていた。
「一見すると、直桜が穂香に抱き付いて首元にキスしているような光景だね」
要に指摘されて、ドキリとした。
「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど」
「いいえ! 直桜が化野さんとラブラブなのも、女性に興奮しないのも知っていますから! 私が勝手にドキドキしただけなので!」
触れる穂香の体に流れる霊力は穏やかで落ち着いている。
「前みたいに体調崩したり、してない?」
穂香は、母親が死産した姉の死霊に憑かれている。死霊は守り神になって穂香を守っているが、霊の力が勝り穂香の霊力が落ちると体調を崩す。
その対策に、直桜は時々、ネックレストップに神力を籠めてやっている。
「直桜のお陰で、とても調子がいいですよ。このネックレスは私の宝物です」
ネックレストップを握り締めて微笑む穂香は、直桜から見ても可愛いと思った。
「穂香が作ってくれた猫のあみぐるみ、俺の眷族になったんだ。もし解れたりしたら直してくれる?」
「猫のあみぐるみ……、枉津日神様の犬とセットで作った、あの子?」
頷くと、穂香が嬉しそうに笑んだ。
「勿論! 解れてなくても連れてきてください。お洋服を作ったり、もっと強い糸で補強したりも出来るから、いつでも。私が作った厭魅が直桜の眷族になってくれるなんて、嬉しいな」
言いながら、穂香が直桜の耳元で囁いた。
「腐談義もしたいですし。前に直桜がご所望だったソフトSMの神作家の本が手に入ったので、遊びに来てください」
穂香は腐女子だ。直桜の腐男子もバレているから、時々話をしている。
力強い声に、直桜は無言で力強く頷いた。
同じ腐女子の律を早く穂香に紹介しなければと思った。
「次は、どこに行くんだい?」
要に問われて、仕事中だと思い出した。
「回復治療室に行くよ。開さんと、あと閉さんにも祝福を分けるようにって梛木に言われてるんだ」
要が直桜を手招きした。
統括室の中に入る。部屋の奥に如何にも簡易で狭い階段があった。
「ここから昇るといい。忠犬は引き留めておいてあげよう」
つまり、護が追いかけて来る、と要は言いたいのだろう。
今日に限っては厄介だ。
「うん、ありがとう。要に甘えとく」
ちょっと複雑な心境ながら、直桜は素直に梯子のような階段を上った。
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