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第26話 再集合
訊きたいことならたくさんあるんだ。
だから、一旦解散して、もう一回、再集合することになった。
――あ、あのっ、本当に熱、大丈夫! なので! あのっ、お風呂入ったら、そのっ。
――朝ご飯、一緒に食べない?
――!
「んー、家着の方が自然?」
お隣さん、だからなぁ。
ここでオシャレすると、なんか、変?
だって、お隣さんじゃん。外に出るわけじゃなくて、玄関開けて、数歩進むだけ。それなのに、外出する時レベルの服って、変?
うーん。
距離と服とテンションのバランスが……。
お隣さんと、おうちデート、と、実は両想いだったっていうテンションが。
――は、はいっ! ぜひ! お願いしますっ!
めっちゃ元気に、めっちゃ大きな声で、再集合の提案に合意してた林田さんも同じだから。
ま。
いっか。
掃除機の音が微かに聞こえた。丸聞こえって感じじゃない。どっちかって言ったら、壁越しじゃなくて、換気を兼ねて開けてる窓から聞こえてた。その掃除機の音に、自然と口元が緩んだ。
あ、お家デートの準備をしてくれてるって。
どんな顔しながら掃除機かけてたんだろう。
緊張して真っ赤?
嬉しくて笑ってる?
ドキドキしてる?
ワクワクしてる?
そんなことを考えながら髪セットしてた。
ねぇ、俺は嬉しくて仕方ない。
もちろんニヤついてる。
けど、ちょっと緊張もしてる。
ドキドキもしてるし、ワクワクもしててさ。
――ピンポーン。
「は、はいっ!」
チャイムを鳴らして二秒ぐらいで、飛び出してきた。ビュン、って音がついてきそうな速さ。
「早っ」
「ご、ごめんっ」
「っぷ、あはは」
ドキドキして、ワクワクして、さっきからずっと口元が緩んだままで困ってるんだ。
「ど、どうぞっ」
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
林田さんが両手を広げて、壁に背中からピッタリと張りついた。玄関から数歩、部屋へと向かう廊下が狭いんだよね。全く同じ作りだからさ。迷子にはならないで済む。ただ部屋の作りが俺と左右対称になってるってだけ。でも不思議だよね。作りは全く一緒なのに、住んでる人が違うと真っ白な壁に木目調のフローリングっていう、何も特徴のないところでさえ、少し印象は違う気がした。
昨日はそこまで細かく見るような心の余裕なかったからさ。
「あ、朝ご飯、あのっ」
「さっき、ネットで調べたら、ちょっと歩くけど、パン屋さんがあるんだって」
「そうなんだ」
「散歩がてら、行ってみない?」
「!」
まだ知らないこともたくさんあるけど、この人のこと、ある程度は分かってる。頑張り屋な分、マジで頑張りすぎるし、緊張するタイプで、あと、そうそう不器用。ナチュラルなボディタッチでさりげなくアピール作戦をいくら練習しても、かなり強めのスイング式ツッコミ、ロボットバージョン、にしかならないくらいには不器用だから。歩きながらなら、少し気が紛れるでしょ? きっと、肩にぎゅって力を入れずに話せるかなぁって思うんだ。
「い、行きたい!」
この人に、たくさん訊きたいことがあるから。
「オッケー、あ、そんで、これ」
「!」
マフラーをその白くて細い首に巻いて上げた。
「ありがと。あの時、すっごい嬉しかった」
「う、ううんっ」
「マフラー、ちゃんとクリーニング出したから」
「え、よかったのに」
ちょっとおかしな格好だったけどさ。バイト先のTシャツとマフラーって、夏アイテムと冬アイテム。寒いんだか、暑いんだかって感じで。
「っていうか、僕こそ、使ってたマフラーとか貸して、臭かったかも! ってあとで心配になったんだ。もう、あれ、愛用しまくってて」
「全然」
臭かったって断言してるとこがおかしくて笑った。全然そんなことなかったよ。ドキドキはしてたけど。好きな人のって意識して、ドキッとかして、まるで中学生みたいだよね。
「ごめんっ、僕」
「林田さんの温もりがあって、かなりテンション上がったんで」
「!」
そこで、林田さんが真っ赤になった。
本当だよ。本当に、あんな偶然あるんだって思ったし、林田さんの体温が残ってるマフラーにはドキドキもしたんだ。けど、その後すぐに、同僚と一緒に飲み会に出てるからかな、めっちゃ嬉しそうって思って、しょんぼりしたっけ。
二次会に向かう林田さんの足取りが、ちょっと跳ねてるように見えたから。スキップでもしてるみたいに見えたから。
あの時、嬉しかったのは、同僚と飲み会の最中だったから、って思ったけど。
そうじゃない?
偶然、俺と会えたから、だったりする?
俺みたいに、マジで? 本当に? って、喜んでた?
「じゃ、パン屋さんまで行こっか」
「う、うんっ」
訊きたいことがたくさんある。
知りたいことが山ほどある。
あの時、してた表情。あんな時に言ってたこと。こんな時の林田さん。その全部が向かってたのが俺へ、だったりした?
笑ってたのも、緊張してたのも、困ってたのも、全部、俺に――。
一個一個確かめたい。
だから、ちょっと歩くけど、ちょうどいいかもしれない。
歩きながら、一つ一つ訊いていこう。
この「両想いについて。
「あ、そうだ、林田さん」
「?」
「カレーって、あの時、あえて辛口にしたの?」
とりあえず、この辺りから、訊いてこようって、玄関先で真っ赤になった林田さんの手を引いた。
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