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第40話 突然触るのは、反則です。

 俺の足の間で桜介さんがベッドの上に膝立ちになって、俺の肩に両手を置いてる。 「……ぁっ、っ」  息をきゅって喉奥で飲み込んだのすらわかる距離。膝まで下ろされたルームパンツ。 「っひゃ……」  それから小さすぎて掠れた桜介さんの声と。 「あっ」  繊細で滑らかで、心地良いレースの感触に、喉が鳴った。Tバックシューツで、後ろのヒップラインのとこ、全部レースになってる。柔らかい肌にレースが走るようにあしらわれて、ちょっとだけ、チラッと見えたのは黒だった。きっと桜介さんの白い肌にすごく映えるんだろうなって思った。まだ、俺の首にしがみつくみたいに膝立ちになってるからちゃんとは見てないけど。  けど。 「あ……」  やばい。  もう、なんか。  マジで、ヤバ――。 「あ、ああああのっ」 「んがっ」 「はっ」  突然目のとこを手で覆われて、あの、ねぇ、目の前、真っ暗なんだけど。 「ははははははは」  え? 笑ってる?  めちゃくちゃぎこちないけど。  は、をそんなに連呼するの初めて聞いたかも。  それから手、グッて押し付けるように俺の目元を抑えてるから、ちょっと、首をグギってやったけど。あと、すごくびっくりしたんだけど。 「初めて、人に、見せる、ので」 「うん」 「その…………僕」 「めちゃくちゃ嬉しい」 「!」 「見せて、ください」 「!」  ドキドキしてるのが、わかった。貴方の心臓の音が聞こえた。トクトクトクって。だから、多分、貴方にも聞こえてる。俺の心臓の音が。 「お、願い、します……見て、欲し、ぃ」  です、が消えちゃうくらいに小さな声が震えてた。そして、俺の腕の中で、恐る恐る、桜介さんが家着の上を両手でぎゅっと握りながら、ゆっくり上に捲り上げて。 「っっっっっ」  胸の辺りまで服を捲り上げたところで、ぎゅって、唇を結んで、目を瞑った。  白くて、細い腰。薄っぺらいお腹。下腹部の右側に花が咲いてるみたい。レースであしらわれた白い大輪の花がそこに咲いてて、銀色をした葉が風に靡くように揺らめいて、シルクの布地に踊ってる。 「すご……」 「!」  触れると、飛び跳ねた。 「え、ひゃっ、ひへっ!」 「キレー……」 「!」  紐が二本ずつ、左右から後ろへ伸びて、背後はやっぱレースになってる。薄くて、繊細なレース。 「……ぁ」  もっと、たくさん感想、言えたらいいのにね。真っ赤になりながら、力一杯に緊張してる姿がたまらなくて、言葉が吹っ飛んだんだけど。震える手で自分から服を捲り上げて見せてくれるところとか、黒でセクシーなのを選んだとことか、もうなんか、マジで、やばい。 「嬉しい……翠伊くんに、見て、もらえて」  そう、恐る恐る目を開けて、切なそうに俺だけを見つめながら、小さな声でそう言ってくれたところとか。 「あっ……ンっ」  言葉と一緒に。 「あ、ひゃっ……あうっ」  理性、吹っ飛んだ。 「あ、あ、あ」  薄っぺらいお腹を撫でて、白い花のレースに触れてから、腰を引き寄せて抱き締めて、その肌に唇で触れた。 「ひゃぅ……」  一瞬で頭ン中、からっぽになった。 「あ、あ、っ、ン」  んで、頭の中がこの人のことでいっぱいになった。 「あ、ンっ」  溢れるくらい。 「あ、ダメ」 「もう少し、捲り上げて」 「あっ」  この人のこと、早く、欲しい。 「あ、ン」  そのことで頭ン中をいっぱいにしながら、肌に歯を立てると、ぎゅっと俺の頭を抱えるようにしがみついてくれる。その身体を抱き留めて、もっと引き寄せて、胸にキスをした。 「ひゃうっ」  小さな粒にキスをすると、ぎゅって力んでる。 「あ、ダメっ」 「敏感」 「っ、だ、だって、そんなとこっ触れたことも、ない、から」  あったら、大変なんだけど。っていうか、また素でそうやって彼氏が喜ぶことを言うんだよね。この人は。 「気持ちいい?」 「お」 「?」  ぎゅって力んでしがみついてる。その腕の中で俺の頭を抱え込むようにしながら、そっと、おかしくなっちゃいそう、って。緊張で小さくなった声で、ぎゅってしがみつきながら呟かれたらさ。 「あンっ」  耳元で囁かれてるのと同じなんだけど。本人はきっと全然そんなつもりじゃなく、なんだと思う。多分。それがまたたまらないんだ。 「あ、あのっ、あの、翠伊くん」 「?」 「ちょっとだけ、いい?」 「? っ、ちょっ」  何? どうしたの? って、聞こうとしたら、腰を丸めて、桜介さんが手を伸ばした。 「あ、よかった」 「っ」  よくないよ。  ちょっと本当にさ。  触ったらダメでしょ。  本当、天然。全然そんなつもりないんでしょ?  けど、マジで反則だから。 「っ」 「翠伊くんの、その、萎えてなくて、よかった」 「あのっ、ねぇ、桜介さんっ」 「? は、はいっ」 「マジで……貴方はっ」 「? あっ」  確かめて嬉しそうにしないでよ。触って、確かめられて、こっちは、マジで、ねぇ。 「桜介さんって、ほんと」 「? んっ、ン……ん」 「可愛い」 「っ、ん」  反則。  可愛いって言われて、嬉しそうに彼氏に抱き付くとかさ。全然いらないじゃん。男を落とす方法なんて、教えなくたって。 「嬉し」  今、俺、ドボン、って思いっきり、落ちてるから。貴方の沼に、この恋愛に。 「翠伊くん」  ドボンって、落ちてる。

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