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第41話 わかってるか、わかんないけど

 ひゅー…………。 「ね、桜介さん、こっち来て」 「は、はひ」  ドボン。 「ここに背中向けて座って」  そんなだった。  抗うなんて到底無理そうな感じで、落っこちたんだ。 「え? あの」 「俺に寄りかかるみたいに」  この人に、落っこちた。 「そう、マジで寄りかかっていいよ」 「っ」  萎えるわけ、ないじゃん。 「あっ、っ」  そんな心配しなくていいよ。 「あ、あ、翠伊、くんっ、あのっ」  興奮で目眩なんてすることあるって知ってた? 俺は、知らなかったよ。今までセックスしたことあるけど、好きな子の勝負下着姿にさ、発熱? してるんじゃんってくらいに熱くなったこととか、クラクラしたこととか、なかったよ。 「あのっ」 「うん」  背後から桜介さんを抱き締めてる。桜介さんが背中を預けるように俺に寄りかかって、俺はそんな桜介さんの太ももを撫でて。ちょっとだけ脚を開くように膝小僧に触れると、背中越しに緊張が伝わってきた。 「ひゃあ、ぁ」  驚いた桜介さんをかまわず抱き締めたまま、そのもっと奥へ手を伸ばした。俺の視界と桜介さんの視界はほぼ同じ感じ。膝を折りたたんで、少しだけ開いた脚の間に俺の腕が挟まって、手がそっと奥の。 「翠伊、くんっ、あのっ、あのっ」 「もっとよく見せて」 「っ」  薬局で買ったローションを纏った指で触れるとキュッて身体を丸めた。 「あのっ、それっ」  ローションのこと? 持ってるよ。ちゃんと準備してあるってば。 「必要でしょ? 桜介さんとセックスするのに」 「! ひへっ! あ、わっ」  男同士、じゃなくて、桜介さんとセックスする、ってあえて伝えたんだ。わかってるか、わかんないけど。桜介さんとだからしたいんだ。貴方のこと大事にしたくて。 「色々調べて勉強した」 「え? あ」 「桜介さんがとろとろになれる上手なセックスの仕方」 「!」 「マジ、テストでもあんの? ってくらい、久しぶりに真面目に勉強した」 「……ぁ」 「俺、桜介さんのことで頭ん中いっぱいだからね」  どこをどうするのか、とか、身体の仕組みとか。貴方とセックスするためにたくさん覚えたんだ。貴方が蕩けちゃうくらいに気持ち良くなれるように。 「ぼ、僕は……す、翠伊くんとできる、なら」 「?」  すっごく小さな声だった。だからこうして後からぎゅって抱き締めてないと絶対に聞き取れなかった。 「どんなふうでも、とろとろになっちゃうと、思う」  すり……って、桜介さんが俺の腕に頬を擦り付けた。 「だって……好き」  ねぇ、あのさ。 「ほんとさ、桜介さんって」 「?」  頬を擦り付けてから、ちらりと背後にいる俺へ振り返って見つめてる。上目遣いとかさ。反則だってば。可愛いでしょう? って計算でしてくれてたらいいのに。この人、天然なんだ。逆に、ダメだよね。ナチュラルに俺のことフツーに煽るんだ。 「魔性だよね」 「え? 僕?」 「そう……」  こんな魔性の人相手に、恋をちゃんとしたことのない奴が落ちないわけ、ないじゃん。 「僕っ、あっ、ひゃっ」  そりゃ、ひゅー、ドボン、でしょ。 「あんま煽らないで」 「あ、ぁ……指、ぃ」 「ちゃんと解さないといけないんだから」 「ひゃあ、ぁ……」  指が撫でると、俺の腕にしがみつく細い手が力を込める。  恥ずかしくて、おかしくなっちゃうと呟いた桜介さんが、俺の腕に縋るようにしがみついてくれる。真っ赤になった顔を見られないようにって、その腕に頬をすり寄せて、閉じてしまいたいと脚に力を入れる。  でも、脚の間に俺の腕があるから閉じられなくて、困って、またしがみ付いて。  腕に貴方が抱き付いてるだけでこっちはドキドキしてる。 「あ、あ、指っ」 「うん」  緊張してる。 「あ、あ、ダメ」 「うん」  頑なに閉じてる。けど。 「翠伊っ、くぅ……ン」  ローションのおかげでゆっくりと指が。 「入っちゃうっ」  ぬぷ、って割り込むように指を挿入した。 「ひゃあっ」  やば。狭くて、熱くて。 「ひゃ、あっ、あぁっ、あっ、っ、っ」  桜介さんの中。 「きつい?」 「あっ」 「ゆっくりするから、寄りかかってて、腕に掴まってて」 「あっ、ぁ、あぁっっ……ン、ひゃっ」  指を根本まで挿入して擦り上げると、腕にしがみつくこの人がまた身体を強張らせた。 「自分でしたことない?」 「あ、えっと」  真っ赤になった。 「あの、ある……けど、怖くて、触っただけで」 「そっか」  キュッて固結びしたみたい。 「痛い?」 「あっ、ひゃあっ」 「桜介さん?」  この体勢だから、桜介さんが振り返らない限り顔が見えないんだ。大丈夫か確かめたくて、覗き込むように顔を近づけて名前を呼んだら、中がぎゅっと指を締め付けて、いっそう、桜介さんが身体を強張らせた。 「大丈夫? 痛い?」 「ちが……あ、あ、あ、声……」 「?」  首を傾げて、ゆっくりとこっちへ振り返る。ふわふわのクセのある髪が俺の首筋を撫でるとゾクッとした。潤んだ瞳がたまらなく綺麗だった。睫毛が濡れてて、目が離せない。今日はたくさん触れた唇が赤くて、甘そうで。  その唇から溢れる吐息がしっとり熱いって感じられるこの距離で、頬を擦り寄せながら囁かれた。  本人はちっともわかってないんだろうけど。  今の俺の頭の中、ほんとに笑っちゃうくらい貴方のことしか考えてないよ。  こういうのをさ、夢中、っていうんだと思う。 「翠伊くんの声が、近くて、ドキドキ……する」  やば。 「あと……」  中がきゅぅんって、指に。 「気持ち、ぃ……ぃ、です」  絡みついた。 「だから、あの」 「……」 「もう、その」 「……」 「翠伊くん」  トロトロになって、絡みついた。

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