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第61話 夜更かしな二人

「本当に、マジで特別な時だけだからね」 「ぇ……」 「えじゃない、マジで」 「……」  ドライヤーで乾かしてあげてる桜介さんが、ちらりとこっちを見上げた。 「ダメ」 「でも、僕」 「ダーメ」  ダメに決まってるじゃん。足に力入らないくらいに、押し倒しまくるとか、俺、ただのケダモノじゃん。  気持ち良すぎて、夢中になった。歯止めなんて全く効かなかった。 「あと、煽らないようにっ」 「えぇ、僕、そんなことは」  無自覚だから怖いよね。  しました。ものすごい煽りました。  もっと、とか言うし。  すごいとか、大きいとか、そこはダメとか、イっちゃう、とか普通に無意識で言っちゃうし。しかも、めちゃくちゃ気持ち良さそうな顔して。  あのエロい顔は反則でしょ。  それに、あれ、マジで。  ――あ、溢れちゃうっ。  って、抜いた直後に手を伸ばしながら、そういうの。 「めちゃくちゃ煽ってるからっ!」 「えぇぇっ」  もちろん、それでまたもう一回って襲っちゃったじゃん。そのせいで、足に力入らなくてさ。 「でも僕、気持ち、良くて」  貴方のことふにゃふにゃにさせることになったのに。 「あと、嬉しくて」  反則、でしょ。 「プレゼント……ぃ」  い? 何? 「えと、ずっと、大事にする」  ドライヤーでふわふわな黒髪を乾かしてあげながら覗き込むと、ふわりと微笑んで、とにかく幸せですって顔をしてる。 「まさか、翠伊くんにプレゼントもらえるなんて思ってなかった」 「……」 「しかも、ブランディシのだよ? ふふ」  あぁ、もぉ。  ねぇ。 「……大変だった」 「え? あっ、ごめっ」 「髪、乾いたよ」  お風呂も一緒に入った。  今、桜介さん、足に力入らないから。ふわふわしちゃって酔っ払ったみたいにさ。セックスして、キスマだらけになった桜介さんがシャワーに、って起き上がったけど、腰砕けになっちゃって。  だから、お風呂に一緒に入って、一緒に出て、髪を乾かしてた。  絶え間なく続いてたドライヤーの風の音が突然止まって、急に静かになった部屋の中、肩透かしを喰らったみたいに耳が戸惑ってた。 「ごめんね。その、お風呂、僕、重い」 「違くて」  重くないよ。いくらでも抱きかかえられる。そう答えると、ほわりと頬を染めてくれる。そんな人を後ろから抱きしめるために、ベッドから腰を下ろして、桜介さんとベッドの間に足でこの人を挟むように座った。 「違くてさ、通販で下着買うの、大変だった」 「……」  小さく身じろいで俺のことがよく見えるようにって、身体をずらしてくれる。膝を抱えて座っている。その桜介さんを後ろから抱き締めた。 「サイズとかわかんないし、色とかさ、実際に見る色と違うかもしれないじゃん? 思ってたのと違うってことありそうで。すっごい色々見て」 「……」  顎を肩に乗せると、ほのかにシャンプーの香りがした。 「いっつも、桜介さんはこうやって買ってるんだろうなぁって思って」 「……」 「ね、今度、二人で選ばない? 桜介さんの誕生日っていつ? その時の誕生日プレゼントは二人で選んでさ。桜介さんの欲しいのと、俺が桜介さんにつけて欲し、」 「……っ」 「ちょ、桜介さんっ、なんで」  大きな、真っ黒な瞳からポトン、って、大粒の雫が落っこちた。 「ごっ、め……あの」 「夢みたい?」 「っ」  貴方が呟こうとした言葉を先に呟いた。  一人でしか楽しめない秘密の趣味。それをこうして分かち合えるなんてって。  きっと、一人でどれにしようかな、これも素敵だなって色々考えて、サイズ大丈夫かなってソワソワしながら買って。届くのを楽しみにして、早速、部屋で身につけてみて――。  ――わっ。  そんなふうに部屋で感嘆の声を溢したりして。 「夢じゃないよ」  そんな桜介さんを思い浮かべた。 「っ」  二人で、楽しむなんてこと思ったこともなかった。  そして、今、嬉しくて涙を溢したこの人が、夢じゃないってわかるように、雫が転がり落ちて濡れた頬にキスをした。 「ね」  今度は、唇にキスをして。 「誕生日、いつ?」 「ぁ……えと、四月、の、四日」 「へぇ」 「桜が満開だったんだって」 「それで、桜介?」  だから、この人はどこもかしこも綺麗なピンク色なのかも、なんて思った。 「もうすぐじゃん」 「ぅ、ん」 「その時は一緒に選ぼうよ」 「……うん」 「俺、サイズわかるなら、一個、めちゃくちゃ気に入ったのあった」 「え、そうなの?」 「けど、サイズがわかんないから、これにしたっていうのもある。サイズわかんなくない? 女性サイズじゃん」 「あ、うん」 「けど、Mでいい感じ」 「うん」  嬉しそう。  頬を染めながら、一つ一つ、たまらなく嬉しそうに、まるで大事な言葉みたいに「うん」って返事をしてくれる。 「あとさ、他にも」  桜介さんが世界で一番柔らかい唇でキスをしてくれた。 「ありがと」 「……」 「すごく嬉しい。大事にする」 「……」 「あの、あと、あとね」 「?」 「誕生日は、特別な時、になる?」 「……」 「また、したい、です」  ねぇ、だから。 「ゴムしないの、したい」  反則だって言ってるでしょ。 「ふふ」  なのにちっともわかってないで、最高の反則技を仕掛けてくるし。 「もお、マジで」 「?」 「もちろん、誕生日は特別でしょ」 「! あ、あと、翠伊くんの誕生日は?」 「俺は十月」 「え」 「っぷ、先じゃんって顔した」 「し、してない」 「したした」 「した、けど、だって、ずっと先だから」 「あはは」  そんなこの人がやばいくらいに可愛いから、抱き締めて羽交締めにして。 「あっという間なんじゃん? 十月なんて」  しばらく、ずっと、俺らはそんなふうに夜更かしをした。

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