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第69話 普通のパンツの桜介さん
「いくよ? 桜介さん」
「う、うん」
「痛っかったら、言ってね?」
「う、うん」
「そっとするから。しがみついてていいよ」
「うんっ、あっ、あっ、あぁっや、あっ…………ってぇぇええっ、や、やっぱり待って、怖いかもっ」
「けど、桜介さん」
ちょっと喘ぎ声みたいな声出すから、ちょっと今、それどころじゃないのに、押し倒したくなっちゃうじゃん。
ほら、それに、なんか半泣きの顔、可愛いし。悲しい気持ちになんてさせたくないから泣かすようなこと、全然したいとか思わないけど、でも、ちょっと、かなり、桜介さんの半泣き顔が可愛い。
とか、思ってる場合じゃなくて。
「たんこぶ、どんなか確認したいんでしょ?」
「う、うううううううん」
それ、うん? ううん? どっち?
「触らないようにするから、じっとしてて」
「はいぃぃぃ」
そして、ぎゅっと抱きついた桜介さんのガーゼを貼り付ける代わりに頭部を押さえてるネットにそっと手をかけた。キズにできるだけ触れないようにネットを外したら、乗せてるだけだったガーゼも一緒に外れて、ポロリと床に落っこちた。
「マジで、動かないでよ?」
「はひぃぃぃ」
「…………」
でか。たんこぶ。
「えぇ? ねぇ、翠伊くん? ねぇ、ど、どうなってるの? 僕の頭」
何? こんな漫画チックにできるもんなの? たんこぶ。マジで漫画みたいなんだけど。たんこぶ。
「ねぇってばっ、翠伊くん」
「……うん」
「何がうん? なの? ねぇっ」
「……ううーん」
「ちょっ、え?」
たんこぶをじっと見つめてた俺を、半泣きの桜介さんがじっと見つめてた。
「っぷ」
「! な、なんで笑って、ねぇってば」
「いや」
だって、なんかこんなに必死で慌ててて、ちょっといつもよりもずっと子どもっぽい桜介さん、初めて見た。っていうか、あれ。稲田さんとさ、いる時の桜介さんにちょっと近くて、嬉しいって思った。少しさ、稲田さんといる時の桜介さんって、俺といる時よりも遠慮がなかったりする。もうちょっとナチュラルで、素の感じ。好きな人の前と友達の前とでは違うものだろうけど。俺だって、大沢と話してる時と、桜介さんと話してる時じゃ、口調が違うから、桜介さんの稲田さんと同じなんだけど。
「大丈夫だよ。俺が頭洗ってあげるし」
「ううー、でも、すごく笑ってる」
それは貴方が必死な感じで可愛いから。
「ほら、桜介さん、お風呂いくよー」
「えぇ? や、でも、お風呂はっ、僕」
「?」
「あのっ」
急に足踏みをし始めた桜介さんに首を傾げると、真っ赤になって、ぎゅっと唇を結んでる。頭が痛い? と、心配になって手を伸ばそうとしたら、その手を両手で掴んで。
「あの、今日は、普通のパンツなので」
痛いのかと思ったじゃん。
「その、男性のままなので」
驚いた。
「ちょっと……その、男性だって、わかってるとは思うんだけど。普通すぎて、その、なんていうか」
「っぷ」
「ひぎゃ!」
何それ。
驚くくらいに可愛い戸惑いなんだけど。
勝負下着じゃないから、普通の、普段のままだから、恥ずかしいって戸惑ってるなんて。可愛くて、つい笑ったら、その笑われたことにさえ戸惑って、飛び上がる。そんな桜介さんが、やっぱり可愛くて。
「可愛い下着付けてテンション高い桜介さんも可愛いし」
嬉しそうに、フリルを見せてくるとこ、すごい好き。
「たんこぶにビビる桜介さんも可愛いし」
前に、ただの主婦がスパイだったドラマを一緒に見た時も必死になってたっけ。あの時の桜介さんの暴れそうな感じもすごい好き。
「普通のパンツの桜介さんも、普通に可愛いよ」
「!」
多分、可愛くない貴方を探す方が難しそうって思って笑ったんだ。
そして、洗面所で触れるだけの軽いキスをした。チュッて。
「ほら、お風呂入るよ」
「……」
「頭に触れないようにするからバンザーイってして」
「は、はひ、バンザイ」
言わなくてもいいんだけど、つい、自然に口が動きに連動しちゃった桜介さんもまた可愛くて、ちょっと隠れて笑いながら服を捲り上げた。
「っ、っ、あんまり、見ちゃ……ダメ」
「俺も、そう思う」
「!」
慌てて、視線を洗面所の隅へと逸らした。
そこで、ガーンってショック受けないでよ。
「貴方のお風呂の手伝いしないとでしょ」
なのに。
「あはっ」
呆れるくらい素直に反応する自分のそれに苦笑いだ。
「……ぁ、翠伊くんの」
「まぁ、男なんで」
好きな子のヌードが目の前にあったらさ、フツーに反応しちゃうでしょ。
「……あ」
だって、可愛いピンクの乳首に、細い腰に、昨日付けたキスマがいくつも残ってるんだ。昨日ものめり込んで溺れてた甘くて美味しくて、夢中になっちゃう気持ちいい身体にクラクラする。
「翠伊くん」
いつもの可愛い下着で甘い桜介さんもめちゃくちゃ好きだけど。
「翠伊くん」
グレーのボクサーパンツ姿の桜介さんも、やばいくらいに可愛くてさ。
「……ン」
真っ赤になりながら腕に掴まって、下から、優しくキスをされて。
下半身、やばいのに。
「翠伊くん……」
悪戯にキスをするこの人にトロトロの絆されてた。
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