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第93話 本当はざわついてる

 大学が再開。  まだ構内は春休みムードが残った学生が楽しそうに春休みに何をしたかで盛り上がってる感じ。  けど、社会人にとっては、今日も、先週も変わりないただの普通の出勤日。 「……ぇ? 飲み会?」 「そ、桜介さんが参加する同窓会から近かったからさ」  桜介さんも先週と変わりなく今日もフツーの出勤日。  伊倉さんのところに行ってる間はほぼ同じ時間に帰ってきてたから、夕飯は適当だったけど。  今日は野菜炒めにサラダも用意した。もちろん、桜介さんの帰ってくるだろう時間にはできあがって、食べられるようにして。  味付けはレシピサイトを見てしっかり測ったから、ちょっとだけ薄かったけど、でも、味は上々。最初の頃に比べたら、料理っぽくなったかなって思う。でも、原さんって、なんか、勝手な想像だけど、自炊とかすっごいしてそう。なんだったら、林業でさ、山に入って仕事して、昼休憩とかその場で、ぱぱっとバーベキュー的なの始めそう。わかんないけど。森の管理をしてる時に火を扱うバーベキューなんて言語道断かもしれないけど。小さな火の粉でも、もしかしたら木に飛んで、火がついちゃうかもしれないし。  でも、車の後部座席のところでパッとコーヒー作って出してくれたところとか、かっこよかったし。  って、いや!  かっこいいけど!  でも、別に、そこまでではない!  多分!  そこまでじゃない、ってことにしたい!  で、つまり、料理でもなんでもさ。  将来的にも、今のうちから練習しとかないと。 「だからさ、終わったら一緒に帰れるかなって」  これで、まずは原さんに取られる防御線ひとつを張った。それでも、告白された時点で、そっちに、原さんに気持ちが傾くことがないように、夕食も作るし、お風呂も準備しちゃうし。  大学生だから、全然未熟だけど、収入とかないに等しいけど、逆に大学生だからこそ、社会人よりも時間があります。だから生活面でのフォローできますっていうアピール。 「あ、う、うんっ」  かっこ悪いけど、でもなりふりかまってられない。 「俺の方は適当にいつでも抜けられるから、桜介さんが都合ついたところで連絡して」 「う、うんっ」  原さんに取られたくない。 「楽しんできてね。同窓会」  そんなふうに余裕のあるフリをしてるけど。全然余裕なんてないよ。 「ぅ、ん」  桜介さんを奪われないようなりふりかまってられないんだよ。  かっこ悪かろうが、俺はこの人、離したくないから。 「あ、翠伊くん、あの、野菜炒め、ごちそうさまでした」 「味、大丈夫だった? なんか薄かったかなぁって」 「ううんっ、全然。ごめんねっ、やってもらっちゃって、あの」 「美味しかったんならよかった」 「あの、でね」 「?」  ちょん、って。 「明日は大学、朝、早い?」  貴方が俺に触れた。肩に。 「……早いけど」  すご……なんか。  胸躍る、を実感してる。 「してもいいの?」  好きな人にアピールの仕方がわからないから教えて欲しいって言ってた人。さりげないボディタッチなんてできなくて、ツッコミロボみたいに、バシーンって肩に手を当ててた人。 「う、ん」  そんな人が赤くなりながら、したいですって誘ってくれる。  ちょんって触れて、クンって引っ張って、誘惑してくれる。  そんなの感動するでしょ。  もう、マジでさ。 「やった」 「っ、あっ……」  絶対に、あげたくない。 「翠伊くんっ」 「うん」 「ぁ……す、ぃ……く、ん」  唇が柔らかくて、キスが美味しいって感じる。 「ふぁ……ぁっ」  ゆっくり深くキスをしながら引き寄せると、桜介さんも俺のことをゆっくりと引き寄せてしがみついて、腕の中に収まってくれた。舌を絡めると、肩をすくめて、辿々しく舌を差し出してくれる。 「ン」  どんなに原さんが立派でさ、かっこいい大人だろうと、絶対に桜介さんのこと譲りたくない。 「あっ、ン」  首筋にも唇で触れながら、服の中にするりと手を忍び込ませた。帰ってきてからすぐにお風呂に入る桜介さんのスベスベした肌に手を這わせて、肌の感触を楽しんでからするりと今度はその手を下に滑らせていく。  指先で確かめると、桜介さんが真っ赤になりながら顔を隠すように俯いた。 「今日は、紐のだ」 「ン、そ、ぅ」  コクンって、頷いて、小さく返事をしてくれた。腰を引き寄せて、その蝶々結びになっている紐の端を少しだけ引っ張ると、キスで赤みを帯びた唇をキュッと結んだ。  解いて見せてしまいたいような、まだ解いたらやだ、もっと、たくさん焦らして欲しいような、切なげな表情をしてる。 「……ぁ、翠伊くんっ」  やらしくて、えっちで、それでいて照れ屋で。 「あ、ひゃぅっ」  敏感で、気持ちいいことにけっこう素直で。 「あっン」  とにかく可愛いこの人は俺のだから。 「あっ……っ」 「キスマークつけてもいい? ちゃんと見えないところにするから」 「う、んっ、いっぱい」  あげない。  そう思いながら、服でちゃんと隠れるところに、色濃く、赤い印をくっつけた。 「付けて……たくさん」  しっかりちゃんと、印をつけといた。

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