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第98話 今日は特別な日
まだタイトルは決めてないけど、今日は何かの特別な日にしようよ。
最速夏日とか。
レシピが一つ増えた日でも。
なんでもいいんだけど。
俺たちがめちゃくちゃ相思相愛って実感した日だから。
誰も邪魔できそうになくない? って、実感できて、今、最高の気分なんだ。
だから、とにかく今日は特別な日。
それで、特別な日のセックスは――。
「……翠伊くん」
「?」
「あの、誕生日プレゼントありがとう」
「あ、届いた?」
「ん」
コクンと頷いて、バスルームから出てきた、ほんのりボディソープの香りをさせた桜介さんがほっぺたを赤くした。俺が貸した服を上だけ着て。
それから、そのまだしっとりとしている指先で俺の手を握って、俺を見上げる。
「いい感じ?」
「うん」
「見たい」
そう囁いて、耳元にキスをしたら、声にならない甘い吐息が小さく答えてくれる。そして、くるりと背中を向けて、服を捲り上げてくれた。
二人で選んだランジェリーは、ブルーグレーがすごく綺麗だったんだ。白いバラを中央にあしらったブーケみたいな刺繍が豪華で、スワロフスキーがたくさんちりばめられていて、角度を変えるとキラキラ輝いてる。Tバックのタイプにして、正解だったね。
めちゃくちゃ綺麗で、めちゃくちゃ――。
「なんで、後ろ姿?」
エロい。
「っ、前は、ちょっと恥ずかしい、から」
桜介さん、顔、真っ赤になっちゃった。
くるりとまたこっちへ向き直す時には、服を捲り上げていた手を離して、前を隠してる。
「も、ドキドキして、その」
「その?」
「っ」
今度は唇をキュッと結んだ。
それから、俺の目の前まで来て、そっと抱き締めて小さくクラクラしちゃうようなことを囁いてくれる。
勃っちゃってるの、なんて。
「もう?」
「っ、だって、今日は、特別な日って、翠伊くんが言ってくれた、から」
「うん」
そう、特別な日のセックスは、しないから。
ゴム。
「僕、翠伊くんと、その、できるの、いつもすごく嬉しい、から」
途切れ途切れになっちゃうのはきっと貴方もクラクラしてて、ドキドキしてるから。
「ぁ、今日もできたって」
「……」
「胸もないし、その翠伊くんと同じ男の身体だけど、ちゃんと、できたって」
「……」
「だから毎日とかできると、嬉しくて、毎日、幸せで」
桜介さんの仕草のひとつひとつに胸が踊る。言ってくれる言葉一つ一つに、気持ちはふわふわ優しくなるし、前向きになる。貴方が好きって言ってくれる度に、こっちは有頂天なのに。
「僕、いつも思ってた」
「?」
「夢みたいって」
抱き締めてくれる。
「キス、する時も」
柔らかい唇で俺にキスをしてくれる。
「こうしてる、時も」
お風呂から上がったばっかの桜介さんは温かくて、いい匂いがして。
「元々女の子が恋愛対象の翠伊くんと付き合えて、ずっと夢みたいって」
あの時も、この時も、貴方はそれを言ってたっけ。その度に笑いながら、夢じゃないよって伝えた。ほら、夢じゃないでしょ? 触れるじゃんって、俺は笑ってたけど。
いつも、そんなことを思ってた?
「誕生日を祝ってくれた時も」
すごく嬉しそうにしてたっけ。
「ブランディシのランジェリーを一緒に選んでくれた時も」
いつも嬉しそうで、でも少しだけ、ほんのちょっとだけ、俺をじっと見つめる瞬間があるのを覚えてる。一秒にも満たないかもしれない。でも確かに、噛み締めるような、確かめるような沈黙があったりした。
「あの、誕生日に、駅まで迎えてに来てくれた時も」
確かに驚いてた。
「いつも、夢みたいって、今もね……だから確かめたくて」
「……」
「翠伊くんとこうしてるのが夢じゃなくて、現実で、夢で作った翠伊くんじゃなくて、本物だって」
確かめたくて、触ってみるんだ。
夢じゃないと確かめたくて――。
「桜介さん」
「っ」
本物だし、現実だよ。
そう伝えるように、おでことおでこをくっつけると、吸い込まれそうな真っ黒な瞳の中に俺が映ってた。
そんなにじっと見つめられるとくすぐったいよって、小さな声で笑いながら呟くと、慌てて、その瞳を逸らしてる。
「たくさん確かめてよ」
俺が本物だって。
こうしてるのも本当だって。
「ひゃうっ」
首筋にキスしたらさ、ちゃんとくすぐったいでしょ?
「ン」
唇をしっかり重ねたら、息、ちょっと大変になるし。
「ん……ぁ」
一緒にベッドに寝転がって、俺が覆い被さったらさ。
ね? ちゃんと、重たいでしょ?
「ふっ……ぁっ」
ちゃんと、俺の感触、あるでしょ?
重なると、もうガッチガチになってるの、わかる?
「ぁ……翠伊くんの」
「今日は多分、夜更かしになります」
「……ぁ」
「付き合ってね、桜介さん」
「ぁ、うん」
唇を重ねた。
「うん」
深く、しっかりと舌先を絡めて。
ちゃんと、貴方にこれは夢じゃないよってわかるくらいに、激しくて、濃厚なキス。
だって、今日は特別な日だから。
「ひゃっ……ン」
何も隔てることなく、貴方の中に触れるセックスをする。俺の体温を直に感じる、一番気持ちいいセックスをする日、だから。
「翠伊くんっ」
夢なんかじゃないって、ちゃんと実感してもらえると思うんだ。
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