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第100話 バニラアイスクリーム

 桜介さんの小さな口の中は熱くて、とろとろで柔らかくて、なのにたまにきつく狭くしたりする。  めちゃくちゃ気持ちいいんだ。  きっと、あの優しい声だって堰き止められて、少しも溢せないくらいに、口いっぱいのはずなのに。  苦しいでしょ。  顎、疲れちゃうじゃん。  そう思うのに。 「っ、桜介、さんっ」 「……ン……っ……ん、ふ」  離してあげられない。  ありがと、気持ちよかったって言って、ここで止めてあげられない。  俺の気持ちいいところにばっかキスしてくれるのが、たまらなくて、もっと堪能してたくなる。 「っ、ヤバ」  思わず、そう溢すと、ここが気持ちいいところなんだって桜介さんの柔らかな唇を窄めて、くびれたところを扱くように頭を上下させてくれる。  それが愛しくて、自然と伸びた手が小さなその頭を撫でた。 「っ、はっ」  撫でられて、くすぐったそうに桜介さんが首を傾げてから、チラッとこっちを見つめてる。 「っ」  それ、反則でしょ  咥えながらこっちを見るとかさ。  も、イッちゃうとこだったじゃん。  すごく、気持ちいい。  最高。  だからさ。 「ね、桜介さん」 「……?」  俺のを両手で握ってキスしてくれるこの人の頬を撫でた。  それから、俺より華奢なこの人を押し潰しちゃわないように、肘をついて覆い被さる。睫毛一本一本をじっと観察できるくらいに近くにいくといまだに緊張したりする桜介さんの、柔らかくて、本人はあんまりらしいけど、俺はすごく好きな黒い癖っ毛を指先に絡めた。肘をついて、おでこのあたりの前髪をくるって。  それから、柔らかい耳朶には、唇で触れて、その頬にキスをする。 「ありがと」  めちゃくちゃ気持ちよかったって言葉でも、キスでも伝えて。 「あっ」  そのまま指で、孔のとこに触れた。 「……ン、ぁ」  欲しいって指先で伝える。 「翠伊くん」 「ちょっと限界」 「あっ……っ」 「い?」  コクンと頷いてくれたのを確かめて、深く口付ける。挿入と舌先で、桜介さんを独り占めしたくて、一緒くたに貴方の中に入れさせて欲しくて。 「ん、んんんっ、ン」  中の熱さに頭の芯が痺れた。狭くて、きつくて、けど、柔らかい。 「桜介さん」 「あっ、ひゃぁっ、翠伊くんっ」  桜介さんに名前をそう呼んでもらえるのが好き。 「あ、あ、あっ」  優しくて甘い声が可愛くて。細い腕なのに、きっとたくさん重い荷物とか運ぶからかな、しがみついてくれる時はけっこう力強くて。でも、やっぱ優しい。手はあったかくて。指先は華奢で繊細で。  腰が細くてさ。 「あぁっ……ぁ、翠伊くんっ」  激しくしたら壊れちゃいそうなのに。 「あ、あ、あ、すごいっ、あ、ひゃっ」  止めてあげられない。  めちゃくちゃ大事にしたいのに、いつもちょっと離してあげられずにいる。 「ひゃうっ……ン、ン」  敏感な乳首にキスすると、中がしゃぶりついてくれる。  キスマークをさ。 「あっ……ン」  こうして白い肌につけると、嬉しそうにしてくれる。  すごい可愛い顔してくれるんだ。 「あ、ン、翠伊くんっ」 「うん」  なんだろ。 「ン、翠伊くんっ」  同じ男なのに。  女の子とは全然違うのに。 「ぁ……好き」  可愛くて。  同じ男なのに、全然同じじゃない。 「あ、ダメ、あんまり見ちゃっ」 「桜介さんのとろっとろ」 「っ、恥ずかしっいっ、あ、ダメ、触っちゃ」  同じ男なのに。 「ひゃぁっンっ」  好きでたまらない。 「ね、桜介さんはさ、俺しか知らないじゃん?」  俺が初めてでしょ? 全部。 「キスも、今してくれたのも、セックスも」  他を知らないのって、少しもったいなかったりしない? バニラのアイスクリームは美味しいけど、一生、バニラのアイスクリームだけじゃ、ちょっともったいないことした気がしない? 他にも、チョコとか、抹茶とか、ストロベリーとか、たくさんあるのに、他の味を一生知らないのなんてさ。  他も食べてみたくなるでしょ? 「けど、ごめん」  おでこにコツンって触れた。 「これからも俺だけにしてよ」 「!」  キスも、フェラも、セックスも、それから、デートも、あとセックスの後のイチャイチャも。 「俺だけにして」  チョコも美味しいし、抹茶もストロベリーも美味しいよ。  けど、バニラのアイスクリームしか知らなくてもさ。 「翠伊、くん?」  バニラビーンズたっぷりの美味しいアイスを食べさせてあげるから。もうこれしか食べたくないってさせるから。だから――。 「僕こそ」 「……」 「翠伊くん、モテるのに。可愛い女の子がたくさん翠伊くんの彼女になりたがってるのに。翠伊くんだって、女の子と……付き合ってたら、もっと、たくさん……」  そこで桜介さんがキュッと唇を噛み締めた。 「僕じゃしてあげられないこともたくさんある、のに」  優しい腕がすがるように俺の腕に触れた。 「わかってる、けど、でも、翠伊くんのこと、ずっと」  美味しいバニラアイス。 「独り占めしてたい、です」  チョコも抹茶も、ストロベリーも勝てない、めちゃくちゃ最高に美味しいバニラアイスを。 「好き」  一生、貴方に食べさせるから。 「大好き、翠伊くん」  だからさ。 「ね、桜介さん」 「は、はいっ」 「そのうち、言おうと思ってたんだけど」 「っ」 「大学、卒業したら、一緒に住もうよ」 「!」 「ずっと一緒に、住もうよ」  ずっと俺だけにして。チョコも、抹茶も、ストロベリーも食べられなくても満足しちゃうくらいにさせるからさ。だからずっと、俺とだけ、キスもセックスも、デートも、全部。 「あ、ど、しよ」 「夢みたい?」 「う、ん……あ、っ、ダメ、今、動いちゃっ」 「夢じゃないよ」 「あ、気持ち、ぃ……の、イっちゃうっ」 「桜介さん」 「あ、あ、あ……あン」  深く、奥に。 「ひゃぁっ……ン」  貴方の奥に挿れさせて。 「あぁっ……ン」  全部にキスしたい。 「あ、翠伊くんっ、翠伊くんっ」  全部が愛しいんだ。指先まで、髪の毛の先から、鼻先も、睫毛も、声も、何もかも。 「好きだよ。桜介さん」 「あ、翠伊くんっ、イッちゃうっ、僕」 「うん」 「あ、イっちゃうっ、あ、あ」 「俺も」  愛しくてたまらないんだ。  一生一緒にいたくて仕方ないくらい。 「あ、翠伊くんっ、あ、あぁぁぁぁぁ」  貴方のことが好きでしょうがないんだ。

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