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浴衣の君と編 2 相変わらず仲良しです

 いつかは伊倉さんみたいな建築士になりたいって思ったんだ。  全然、メーカー勤めの建築設計とかの仕事でかまわないって思ってたんだけどさ。そのほうが楽じゃん。雇われてたら、会社から言われた仕事こなしていればお給料出るんだし。他、面倒なこともないし。ぶっちゃけ自分がしっかりしてなくてもいいというか。  けど、桜介さんといるとさ。  桜介さんが俺にくれる言葉のひとつひとつがさ  なんか、シャキッと背中を、姿勢を、伸ばしてくれる。  あの人が素敵って思う男になりたいって思わせてくれる。 「わっ、お疲れ様っ、翠伊くんっ」  この人にずっと好かれていたいって思うんだ。  かっこよくて、大人で、この人をまるっと包み込める大人になれたらって思うんだ。 「疲れたでしょう? あのっご飯、作ったよ? 食べてく? お風呂先に入る?」 「んー……」 「わひゃっ」  ぎゅっと抱き締めたら、また面白い声をあげてくれる。  俺、この人のこの変な声が好き。  エッチの時に出す甘くておかしい声もすっごい好き。  全部可愛いんだよね。 「あ、あの」  腕の中でどうしましょうって困ってるのが伝わる。 「翠伊、くん」  ずっとこの人と一緒にいたい。  だって、顔見ただけで元気になる。  この人にご飯にする? お風呂にする? って、かまってもらっただけで、今日一日の疲れが吹っ飛ぶ。もう九月なのに、あれ? 夏って九月も、でしたっけ? ってくらいに、ちょっと駅までマジダッシュしたら汗だくになったけど。乗り継ぎ三回の道のりですっごい大変でも。空調の整った車内のおかげですっかり涼めたはずなのに、職人さんの仕事場がまた駅から遠くて、また汗だくになったけど。  んで、その道のりを今度は帰りにも味わなくちゃいけなくて、大変なんだけど。 「えと……」  この人の顔見た瞬間、明日も頑張ろうって思える。  早くこの人が安心して寄りかかってくれる大人になれるように。あと少し、大学卒業したらさ、仕事して、車も買って、スーツもビシッと決まる大人の男に――。 「つ、疲れてる? あ、あ、あ、あ、あ」  困ってる。ね、すっごい困ってる、でしょ? 「あのっ」  多分。  きっと、かっこいい愛しの翠伊くんはすごく疲れてるから休みたいだろうし、お風呂入ってスッキリサッパリしたいだろうし、お腹も空いてるだろうけど。  あ、あ、あ、あ、あ、当たってます。  あの、僕のとこに、その、えと、んと、翠伊くんの翠伊くんが当たってますよ。  僕は気がついちゃったけど、知らないフリをしたほうがいいのでしょうか。  それとも気がついてますって言った方がいいのでしょうか。  えと、えーっと。  そんなことを今、桜介さんは考えてるでしょ。  耳まで真っ赤。手は困惑のあまりぎゅっと握ってる。  いや、当ててるんだけど。 「お風呂」 「あ、うん。すぐに入れるよ」  汗だくなんで、むしろ汗臭くてごめん、だけど。 「に」 「に?」  お風呂を選択した後に続いた「に」に不思議そうな顔をしてる。首を傾げて、なんだろうって。 「一緒に入る!」 「え! あのっ、僕はもう」 「本当は可愛い下着を着けてる桜介さんをこのまま押し倒したいけど」 「押しっ」 「汗臭いから」  えぇっ! ってそこで慌てて桜介さんが自分の匂いを嗅ごうとしてる。いや、違くて、臭いの俺だから。  そう笑いながら伝えたら、臭くなんてないよって真っ赤になって優しい声で言ってくれる。  そんな桜介さんに、この短時間でもう何回目かの「可愛いなぁ」を胸の内で呟いた。 「今日は、フリルがたくさんあるやつ。淡いピンクの」 「!」 「お尻触ればわかります」  そこでキラキラって瞳を輝かせてから、ふふって、微笑んでくれる。 「この前、翠伊くんが可愛いって言ってくれたから」  いつも可愛いよ。 「今日はこれにしたんだ」  そう言って、優しく丁寧にそっとキスをしてくれる桜介さんは世界で一番。 「ン」  可愛いです。 「桜介さんは今日、忙しかった?」 「僕、ですか? 僕は、全然。翠伊くんに比べたら。外、暑かったでしょう? 熱中症とか大丈夫かなって心配してました」  今日は、職人さんのところに行く途中で野良猫がものすごいブスったれた顔でこっちを見ててさ。それがおかしくて、微動だに動かないし。だから写真に撮って桜介さんに、こんな猫いたよって見せてあげた。  お外ですか?  暑いですか?  ちゃんとお水飲んでくださいね、ってメッセージが返ってきた。  それだけで嬉しくなるし。  猫さん、可愛いです。  そう言ってニコニコマークをくっ付けて返事をしてくれるから、外に出て職人さんのところに行った甲斐があったって思える。 「疲れてる?」 「僕ですか? 僕は全然」 「じゃあ」 「……ン」  甘くて、ゾクゾクってしちゃうキスをした。 「ぁ、翠伊、くん」  お風呂に一緒に入ってキスして、触れ合って、ご飯食べて、食器もちゃんと片付けた。あとは寝るだけ。  明日も仕事の桜介さんの負担にならないように。けど。 「い? しても」  フリルがいっぱいのランジェリー姿の桜介さんも見たいから。 「は、い」  甘くて、深くて、とろけるキスをした。 「僕も、です」  自分からルームパンツを脱いで、後ろ向きになると、四つん這いになってお尻を見せてくれる。 「僕も、したい、です」  そんなことを言いながら、そんな格好をしちゃう、可愛い恋人のお尻のフリルにキスをすると、あの可愛くて面白い声がして、甘く、俺の名前を呼んでくれた。

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