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社長と父親に連れられてやってきたマンションの一室。 世話係の一人・安野さんに案内されて入った部屋にその子はいた。 その子と少しばかりしか変わらない程度の背丈の世話係の小口さんの後ろに隠れるようにして、こちらの様子を伺っていた。 父が「大河様」と呼んだその子は、同年代の子と会ったことがないという。 だから、はじめは人見知りをしているのかと思っていた。 けれども、ぼくが挨拶をした時、周りの人達が褒められている姿を見て、へそを曲げてしまったらしいとのこと。 挨拶なんて基本のことだからなんてことないのだけど。 そういえば、幼稚園でも他の子が褒められているのを見て、「なんで、ぼくもほめてくれないの!」って拗ねている子がいたが、そのような感じなのだろう。 幼稚園の子も大河くんもそうだが、何かをしたってわけじゃないわけだから褒められる理由がないのになって思ってしまうけれど、褒められた時の優しい顔を向けてくれ、頭を撫でられたいのかもしれない。ぼくもそれが好きだから分かる。 だから、褒められるように行動したらいいのにって思った時、父が大河くんは話すのが難しいということを言っていたのを思い出した。 とはいえ、話すのが難しい、というのがいまいちピンとこなかった。 自分の気持ちを上手く言葉にするのが難しい子がいるけれど、そういうのではなさそうだ。 今のぼくでは理解するのができないようだ。もどかしい。 どちらにせよ、ぼくの普通は大河くんの普通ではないことは分かった。 だから、恐らく挨拶さえするのが難しい大河くんが拗ねてしまうのは当たり前だ。

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