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「こらっ、大河様を巻き込まないの!」「巻き込んでいるのは安野さんでしょ」とああ言えばこう言う二人に苦笑混じりにどうしたらこの場を収めることが出来るのだろうと考えていた。
「──安野。小口。あくまで客人である者の前でみっともない真似をするな。態度を弁えないと二人まとめて解雇にするぞ」
その時。低く唸るような声が聞こえた瞬間、争いが途絶えた。
怒声を発した御月堂さまは、普段と変わらない無表情に見えたが、その声で付加され、ぼくの目には怒っているように見えた。
怒られた二人──小口さんは何処吹く風といった様子だったが─もそう感じたのだろう。萎縮しているようだった、しかし。
「また言っているんですか〜? 雇い主の社長さまの権限とはいえ、それは無理って言ったでしょ」
「悔しいですが、小口の仰る通りです。脅しとして仰ったかもしれませんが、その脅しはとうに通じませんよ。冗談だと思っています。というよりも、冗談だと仰ってくださらないと、姫宮様と離れ離れになってしまうじゃないですか⋯⋯! 生きがいを取るのをお止めくださいませ⋯⋯!」
「⋯⋯お前達、いくらなんでも私のことを舐めていないか」
呆れてものがいえないといった御月堂さまらの様子を眺めていると、「伶介くん」と声を掛けられた。
振り向くとそこにいたのは、大河くんと同じ綺麗な瞳をした大人しげな人。
恐らく、この人は⋯⋯。
「あ、えっ⋯⋯と、まだ名前を言ってなかったよね⋯⋯。姫宮愛賀です。大河の母親です」
やっぱりそうだ。
ちょっと切れ長のような目尻が大河くんとあまりにも似ていているものだから、そうだろうと思っていた。
大きくなったら、大河くんもこのような顔立ちになるのだろうという傍ら、どことなく自信なさげな口調は、見た目と相まって物静かな人なのだろう。
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