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「ぼく、たいがくんのところにいってきます」
「はいはい、いってら〜」
「おえかきしている最中のようなので、なるべく邪魔をしないように」という言葉を背に受けて、ぼくは大河くんの元へ向かった。
「たいがくん、なにをしているの?」
変わらずに親を見つめている大河くんに声を掛けた。
すると、はっとしたような顔を見せて慌ててお絵描き帳に目線を戻した。
どうしたのだろうと首を傾げつつもぼくは、その大河くんの目線の先を見た。
黒髪のにっこりとした顔の人物。
大河くんが描いた表情をはっきりとは見たことがない。
けど、他の人達にはない特徴的な髪型から誰を描いているのかが分かった。
「たいがくん、ままをかいているの?」
そう訊いただけだった。
それなのに大河くんはそのお絵描き帳を急いで胸に抱いた。
急な行動にぽかんとした。
みられたくなかったのかな。
「かってにみちゃって、ごめんね。みられたくなかったよね」
「⋯⋯⋯」
「たいがくん、えをかくのがすきなの? ままのえ、じょーずだね。たいがくんのまま、きれいでびじんだからかきたくなるの、わかるよ」
大河くんの手前そう褒めたが、ぼくの母親だって美人な方だ。
といってもぼくの母は可憐な雰囲気で、大河くんの母は控えめな雰囲気といった感じだ。
普段は誰にも気づかれないけど、あることがきっかけで誰もが振り向く美人のような。
例えばそう、大河くんが描いた笑った顔の時、みたいな。
と、褒めた瞬間、大河くんの瞳に光が宿ったように見えた。
えっ、と思ったのも束の間、ほんのりと頬に朱が差したかと思えば、固く閉じていた口を震わせながらも小さく開いた。
そして、口をぱくぱくといった仕草を見せる。
何か伝えたいようだ。でも、さっきのように声が出なかった。
そのうちすぐに諦めた様子の大河くんはまた口を閉ざし、そのまま俯いてしまった。
その様子にぼくは胸が痛くなるのを感じた。
こんなにも話したそうにしているのに話せない。
どうしてあげればいいんだろう。
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