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人前で歌うのは何度目だろう。この歌は歌い慣れているはずなのに、今日はやけに緊張しているような気がする。マイクを握る手に力が籠もっている。
少し調子が乗ってきたところでチラリと彼の方に視線を向けると、彼はロイドのことをじっと見ていた。
彼の姿を見ただけでドキリとした。彼がいるから、緊張してしまっているようだ。それでも、彼にロイドの歌を聴いてもらっていることが嬉しいと実感している。サビに入った途端、いつになく声が伸びて自然と笑みが浮かんでいた。鏡で自分の姿を観なくてもはっきりと分かる。いつもより身体が軽いから。
彼にもっとロイドのことを見てもらいたい。そう思っていると、ロイドは歌詞の最後を口にしていた。音楽は徐々に小さくなっていき、終わりを告げた。
一瞬の静寂が店を包んだ。ロイドは視線を客席に向ける。
すると、わっと盛大な拍手が店の中に響き渡る。
「ありがとうございました!」
楽しんでもらえる歌を歌えた。そうはっきりと実感できたことにロイドはほっと安心した。
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