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第5話
ゴールデンウィーク明け、早々に女生徒から告白され、夏休みはラグビー部のマネージャーに好きだと泣かれた。家庭科の授業でクッキーを焼けば、職員室の迅の机の上はクッキーが山積みになった。
その他にも、手作り弁当を差し入れられたり、手紙をもらったりもした。最近は週一くらいで告白されている。高校のときからモテはしたが、ここまでではなかった。
宗方先生から言われた通り、可能な限り女生徒へのスキンシップは避け、話をするときは周りに人がいるところでするよう心がけた。
学校という閉鎖的な環境の中で芽吹いた教師への憧れは、簡単に恋という花を咲かせてしまうのかもしれない。中にはひどく思い詰めた顔をして好きだと言ってくる子もいて、傷つけないよう気持ちをたたませるのに神経を使った。
「心海先生は、優しすぎるのよ」
隣の席の白川先生が、くるんと椅子をこちら側に向けた。入学式の堂々とした挨拶と校長の娘ということもあって、最初は気後れを感じていた迅だったが、話してみると白川先生はとてもさっぱりした気持ちのいい女性だった。
「厳しく接しても愛があれば、生徒にとって心を成長させる良い経験になると思うけどなぁ」
白川先生は迅より三つ年上で、どことなく宗方先生の奥さんに雰囲気が似ていた。それはすなわち、迅の理想の女性ということでもある。
「白川先生はその……、もし男子生徒に告白されたら、どんなふうに返しますか?」
白川先生は美人だ。スタイルもいいし、今まで男子生徒に告白された経験が一度や二度あるだろうと思ったら、その予想は的中した。
「十年後も同じ気持ちだったら、もう一度告白してちょうだい。そのとき私が結婚もしていなくて、恋人もいなかったら、真剣にあなたとのことを考えるから。と返すことにしてる」
「十年ですか……」
「ええ。でもね、私の言葉は嘘ではないの、もし本当に告白されたらそうする」
なるほど、と思った。大人でも十年間片想いを続けるのは至難の技だし、高校生ともなれば、ほとんど不可能と言ってもいいだろう。
万が一できたとしても、それはそれで、された方は心が動かされるだろうし、今は高校生でも十年経てばもう立派な大人だ。完全に相手の心を潰さずに希望を持たせる。
先生に好かれるような大人になろうと、勉強を頑張る子もいるかもしれない。それになんと言っても、嘘じゃないと言うのがいい。
考えれば考えるほど、完璧な受け答えに思えた。
「俺もそれ、今度使わせてもらっていいですか?」
白川先生はニッと笑っただけで、くるんと机に向き直った。
白川先生には恋人はいるのだろうか? 結婚指輪はしていないから、まだ独身なのだろう。教師と生徒は御法度だが、教師同士なら問題はない。
ふと、自分と白川先生の間に恋が芽生えたりするのだろうかと考えた。年上で同じ教師、白川先生は迅の理想の女性像にピッタリと当てはまっている。
それなのに、迅は自分が白川先生に愛を囁いている姿を想像できなかった。
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