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第2話 新学期

 「がーく、おっす。春休みどっか行ったか?」  そう言って後ろから肩を組んで来たのは入学以来の友人である叶斗だ。入学してから成長期が止まった様な俺と引き換えに、叶斗は馬鹿みたいに成長している。  今や見上げないと目線が合わないのが地味に悔しい。俺は舌打ちすると、修行してたとぶっきらぼうに返した。 「おま、相変わらずそればっかなのね?もっと高校生らしい楽しいことしなくちゃ。デートとか、デートとか。」  俺は重くなった叶斗の手を肩から振り払うと、ジロリと睨んで言った。 「俺はお前みたいに、見境なく遊び回るのに興味がないだけだ。まぁ、アルファの叶斗には馬鹿みたいに人が群がるから振り払うより簡単なのかもな。」  叶斗はケラケラ笑って、俺の背中をそっとなぞって答えた。 「俺やっぱりお前好きだわ。お前の辛辣な物言い聞くと学校始まった感じするもんなぁ。俺ってマゾかもしれないわ。」  俺は叶斗に触れられた背中の名残を感じながら、最近の俺に対するこいつの触れ方に戸惑っていた。 「…なぁ、今みたいな触られ方嫌なんだけど。」  俺が立ち止まって指摘すると、叶斗はチラッと俺の顔を見てから足を止めずに意味深な事を言って歩いて行ってしまった。 『何が?俺は別に何もしてないよ。岳が敏感になってるだけじゃないの?…最近の岳ちょっとアレだから。』  俺は叶斗の背中を見送りながら、何だよアレってとため息をついた。去年の夏休み以降、叶斗が俺に対して態度を変化させているのには気がついていた。言い方を変えれば妙に執着してるというか、ベタベタしてくるっていうか。  そうかと思うと派手に遊び回って俺と距離を取ろうとしたり。お前こそ情緒不安定じゃないかって、俺はため息をついた。  生徒IDでホームページを見ていたので廊下に貼ってあるクラス分けの名簿は見る必要が無かった。多分皆もとっくに知ってるはずなのに、それでもガヤガヤと名簿を見て盛り上がっている。  俺は通り過ぎる時に数人によろしくと言われて、簡単に手を上げて挨拶を返した。そういえば叶斗は今回別のクラスだったけれど、それに関しては何も言わなかったな。  そんな事を思いながら、俺は3-Dの教室に入ると黒板に貼ってある座席表の指定の席に着いた。案の定、廊下側前から二番目の席だった。席に着いた他の見知った顔に手を上げて挨拶すると、丁度前の席にドスンと相川が座った。 「お?東が二番席なの珍しくない?赤木も浅野も居ないんだな。」  俺はニヤリと笑って答えた。 「お前はいつだってぶっちぎりの一番席だけどな。」  俺たちあ行の定番のジョークを交わして、いつもの新学期は始まったかに思えた。俺はこの一年で自分の人生がとんでもない混乱に巻き込まれていくって正直言って想像もしてなかったんだ。本当に。

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