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第10話 検査

 「はい、採血は終わりましたから、待ち合い室でお待ちくださいね。」  そう言われて、俺はゆっくり桃李のいる待ち合い室へ戻って行った。ここは東家のかかりつけ医で、幼い頃から診て貰っている病院だ。父さんの同級生だと言う高原先生は時々滝行などにも参加するので、プライベートでも顔馴染みだった。  先生曰く、念のため血液検査をしておきましょうと言われたものの、この怠さから逃れたくて俺は何か薬を出してくれる様に頼んだ。  先生は俺に何歳か尋ねた後何か考えながらメモすると、とりあえず胃薬と解熱剤を出しましょうと言った。桃李が会計を済ませて近くの薬局で薬を貰ってくる間、俺は待ち合い室で長椅子に寄りかかりながら目を閉じて待っていた。  病院の自動ドアが開いたのと同時に、目を閉じた俺の耳に聞こえてきたのは父さんの声だった。 「岳、大丈夫か?」  気怠い俺も流石に驚いて入り口へ目を向けた。父さんがあんな風に俺に気遣いを見せるのは珍しかったからだ。丁度後ろから薬局の薬を手にした桃李がやって来た。 「叔父さん!来れたんですか?今丁度終わったとこです。」  父さんは俺に不安げな視線を送ると、桃李にちょっと寄っただけで連れて帰れないから俺を頼むと話していた。丁度昼の診察が終わった様で、高原先生が顔を覗かせて父に挨拶して俺の事を話していた。  僕は桃李に連れられて父さんたちに見送られながら桃李の運転する自動車に乗り込むと、薬を飲んでからぐったりとシートに寄りかかった。車を出しながら、桃李がボソリと呟いた。 「なんか、叔父さんがあそこまで心配するのって初めて見たんだけど。」  俺も目を閉じながら答えた。 「…俺も。まぁ滅多に病気もしないからな。今回はマジでキツい。俺ヤバいのかな…。」  桃李は大丈夫だろと言いながら丁寧な運転をしてくれていたみたいだ。気づけば家に到着していて、俺は桃李に抱えられながら離れのベッドへ転がった。  サイドテーブルに冷蔵庫から漁った飲み物やらをトレーに用意してくれた桃李は、案外気がきく奴なんだと改めて思った。家の鍵を閉めて出て行く音を耳で拾いながら、俺はスマホの着信音を遠くに感じながらベッドに埋もれて意識を飛ばした。  結局俺は夕方父さんが家に帰ってくるまで一度も目覚めなかったみたいだ。目が覚めるとかなり気分が良くて、少しふらつくものの腹まで減って来た。余裕が出た俺はホッとして顔を緩めると、長谷川さんが用意してくれた煮込みうどんを冷ましながらゆっくり食べ始めた。  俺の様子を見ていた父さんは俺が元気になったのを見ると、冷蔵庫からビールを取り出してそのまま晩酌を始めた。久しぶりの父親との夕食は、俺の体調不良キッカケだったけれど悪くないと思った。  でも父さんの話し出した内容に俺自身受け止めきれなくて、そう、悪夢の夕食になったのは間違い無かった。

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