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第11話 新side都落ち
どうしようもない事情で父親について都落ちした俺は、表面上はどうにでも取り繕えたけれど内心は怒り狂っていた。高3の今、東京を離れてこんな山の方が近い地方都市に引きこもるとかあり得ない。
友人たちにも、呆れられた様にそれ本当かって何度も確認されたほどだ。けれども父親は有無を言わさずに転校手続きを済ませてしまったし、父親が転入先に選んだ北山高校も俺の全国模試結果とアルファという事実だけで簡単に転入を決めてしまった。
だから俺が抵抗できる間も無く外堀は埋められていたんだ。結局、俺はまだ親に扶養されている子供だって事だ。俺は半ば諦めの境地で引っ越してからしばらく、春休みと言うこともあって家の近辺を散策するしかやることは無かった。
高井家の本家にも挨拶に行ったけれど、最後に訪れたのが小学校低学年だったらしくて全然覚えがなかった。いかにも由緒ありげな本家は、父親が逃げ出したのも分からなくはない妙な雰囲気を感じた。
誰もいないはずなのに見られている様な気配にキョロキョロしていると、2年前に後を継いだという現当主の伯父が俺を見て言った。
「さすが忍の息子だな。高井家のアルファか。きっと能力も高いだろう。将来高井家を背負ってくれるかもしれない。」
その物言いには俺もギョッとして思わず父親を見たけれど、父親は強張った顔で言い返していた。
「そんな約束はなかった筈だ。今回ここに戻る際の約束は俺だけの縛り契約だっただろう?本当はこの高井家とは縁を切った様なものだったんだ。兄さんの頼みだからしょうがなくだ。ちゃんと文章にしておいてくれよ。」
床の間の蛇が絡まり合った不気味ながら目を奪う様な掛け軸を背にした、父親に面影のある伯父はため息をついて、お茶を一口飲んでから俺を見つめて言った。
「少しは愚痴らせてくれよ。あの祖父が亡くなって、立て続けに後継である兄さんが亡くなったんだ。高井家の土台が崩れたのも同然だ。一方で仕事はキリがない。流石に私だけでは手に余るからな。
お前はずっと逃げていたんだ。少しは板挟みになっていた私の愚痴を聞いてくれてもいいと思うがな。まぁ感謝するよ。…新君だったかな?急に東京から引っ越す事になって悪かったね。いずれ事情は分かると思うが、無理を押しての状況だったんだ。申し訳ないね。」
そう言って俺を見つめる伯父さんの目が、冷たく光る後ろの屏風の中の蛇とリンクする様だった。俺は雰囲気に呑まれて頷くことしかできなかった。
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