12 / 137

第12話 新side青褪めたクラスメイト

 苦しげな表情の青褪めたクラスメイトを助けたのは、たまたまでは無かったかもしれない。ぐったりとする東を支えるのは、俺より小柄だからって筋肉質の身体は案外重くて簡単じゃなかった。  けれども他の生徒に何故か任せる気にもならなくて、こうやって保健室で看病する羽目になっていた。今朝までクラスメイトの東が俺と同じバスを利用していることも知らなかったのに。  実際一度も一緒になった事は無かったんだ。顰めっ面で目を閉じていた東の座るシートの横に思わず立った俺は、東がどんどん青褪めて行くのを見守っていた。  それでも高校前の停留所に着いた東が立ち上がる気配なく、苦し気な様子を放っても置けずに支えながらバスを降りた。東の吐く息が妙に甘く感じたのは気のせいだろうか。  春休みに暇にあかせて白路山の近辺を散策したあの日、山道を馬鹿みたいなスピードで走り降りて来たあの東の姿に俺は多分見惚れたんだ。だから俺はこいつを放っておけない。  他人なんか、ましてβなんて眼中にないはずなのに、都落ちして狂ってしまったのかな。保険医に言われてぐったりした東の首元のネクタイを解いて、指先でシャツのボタンをそっと外した時に白い肌に触れたくなったのには、流石に自分でもギョッとした。  しかも東の掠れた声で、ありがとうと囁かれてゾクゾクしてしまったなんて、俺マジでどうかしてる。始業の予鈴で俺はベッド脇の丸椅子から立ち上がると、眠ってしまった東の顔をじっと見つめた。  ちょっと気位の高い洋猫に似てる東ともっと仲良くなりたかった。でも東にはあいつが付き纏っている。以前昼休みに教室に東を迎えに来た大沢は、あからさまに俺を威嚇して来た。  アルファのあいつもまた、東のどことなく誰にも無い雰囲気にやられているんだろうか。俺はこんな風に他人の事をくどくど考え込んでいる自分に呆れて、保険室を出た。  教室に向かいながら、大沢がいつもの様に取り巻きを引き連れて下駄箱にいるのを横目で見ながら、あいつはまだ東のピンチを知らない事に何だか良い気持ちになった。  俺たちがそれから遠くない先に東を中心に、大きく人生を振り回されるなんて思わなかったと言えば嘘になる。でも確かに俺はこの都落ちを悪くないって感じ始めたのは確かだった。

ともだちにシェアしよう!