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第15話 検査入院

 高原先生と父さんの付き添いで、俺は診察室に入った。バース科は外来でも奥まった場所にあって、プライバシーを大事にしている様な造りになっていた。  レモンカラーの明るい診察室には、高原先生よりも若い30代くらいの優しい表情の先生が座っていた。先生はにっこり微笑むと俺に言った。 「初めまして。私は桂木です。君の様な症例は珍しいから、東京の病院から僕が呼ばれたんだ。僕も君が随分困ってるだろうと思って放って置けない気がしたからね。僕はΩの医師だよ。バース科の専門医で、特にΩに対する診察をメインにしてる。  まぁ、昨日検査結果が出て知ったばかりだって聞いたから何も分からないと思うけど、しばらくこちらで検査入院して下さいね。」  俺はΩの人に会う事も初めてだったし、思わずジロジロ見てしまった。男性だけど中性的な雰囲気の桂木というドクターは、そんな俺に優しく微笑んだ。そしてこれから検査をして下さいと俺は一人看護師に連れられて席を立った。  今日は体調はどうですかと看護師に聞かれて俺は大丈夫だと答えた。実際先日のアレが嘘みたいに解消していて、何ならΩとか悪い冗談の様に感じるほどだった。けれども今俺は検査入院する羽目になっている訳で…。  叶斗たちからの携帯の着信にはどう答えていいか分からず、既読もせずスルーしていた。高校には父親から検査入院することになったと話がいってるはずだ。でも退院後は?Ωとして高校に戻るのか?あり得ない。  しかも二人もアルファが居るんだ。俺は考えても答えの出ない事に胃が痛くなる気がした。Ωと言われれば納得するような桂木先生は俺とは全然違って見えた。  女性とは違うけれど俺のように筋肉もないし、優しげだった。俺は自分でも自覚するくらい立派なβの男として生きてきたんだ。山伏だぞ?オメガ?男に、場合によっては女に支配されるオメガ?ハハ、笑っちゃう。  自分を産んでくれた変異オメガの母親のことはもうどうでも良かった。母親もこんな混乱に産後巻き込まれたのかと思うと、どちらかというと同情心さえ湧いてきたほどだ。  結局その日から入院した俺は携帯の電源も切って、すっかり外界とは縁を切ることにした。面会出来るのは父親と高原先生のみで、一切の雑音を入れる事を拒否したんだ。  もっとも俺自身もそれから10日間の死にそうな気怠さに、周囲を構っている余裕が無かったせいもあった。ああ、マジで死にそうだった。ていうか、俺はβとして一度死んだって事なんじゃないのかな…。はぁ、これからどうなるんだよ、俺。

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