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第16話 退院
「すっかり顔色が良いね。途中は酷い有様だったけど…。岳君が身体を鍛えていたおかげで、予想よりずっと軽く短期で変異が済んで正直驚いたよ。予想では倍の期間掛かると思っていたからね。
検査の数値もほぼ完全なオメガ値が出ているし、もう君はベータではなくオメガだよ。ただ、君のように後天性の変異オメガの場合の発情期がいつ来るかは、周囲の環境や個人差があるのではっきりとは分からないんだ。
まだ高校生でパートナーを得るにも早いから、必ず抑制剤を飲むようにしてね。一番合うものにしたから、多分日常生活は以前と変わらないと思う。」
そう言ってにっこり微笑む桂木先生は、東京とこの街を行ったり来たりして俺を診てくれた。桂木先生はオメガ研究では有名な先生らしくて、俺のような症例を何度か診ているという。
「この病院に君のお母さんのデータもあったんだ。だからやっぱり変異は家系的なものだという論文の確証のひとつになったよ。君は男だし、後天性だからなかなかオメガとして生きるのは大変だと思うけど…。もし何かあったら相談にのるからね。僕たちオメガは軽んじられて良い存在ではないから…。
ひとつだけ注意するとすれば、今までよりも筋肉量は減っていく可能性がある。君は山伏だよね。修行の際は今までとは違うと思ってやって欲しい。特に今は変異したばかりだから、まだ色々チグハグだ。ネックガードもアルファが側にいるならつけた方がいいけれど、いきなりは難しいかな?」
そう言って桂木先生はムチウチ用の首のコルセットを僕に渡した。
「君のΩ値はまだ不安定だから、しばらくこれをつけたらどうかな。自分のオメガ性に慣れたらネックガードに移行すれば良い。何も無しはちょっと危険だから。…君もいきなり噛みつかれて番になるのは嫌だろう?」
俺はゾッとしながらコルセットを受け取った。
「ありがとうございます。あの、今の俺ってオメガだってみんなにわかっちゃうものですか?」
先生はにっこり笑って言った。
「アルファ以外には分からないよ。特に君はオメガっぽくはないから。…実は昨日君に引き合わせたドクターがいただろう?彼は番いのいないアルファだったんだ。
彼曰くは君はちょっと独特らしい。変異オメガの特徴として、多分潜在的移行期間みたいのがあったはずなんだ。オメガでもなく、ベータでもない。でも何か気になると言った感じかな。
彼が言うには、パッと見はオメガだとは感じないらしい。ただ、気になって注目してしまうみたいだ。アルファのオメガへの執着心を刺激するみたいで、側に近寄りたくなるって言ってたね。君にはアルファの友人がいただろう?きっと彼も何かが気になっていたのかもしれない。
僕みたいなオメガははっきりそうだと認識されて、ある意味アルファの方も噛んでしまわないように警戒するから、もしかしたら君の方が危ないかもしれないよ。だから必ず抑制剤を飲んでね?」
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