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第19話 俺の望みじゃない
眉を顰めた叶斗が、買ってきた弁当を手に俺と高井を見た。何か教室も異様な空気になってるし…。相川にも一緒に食べようって誘ったのに約束があるからって逃げられてしまった。…俺も逃げられるものなら逃げ出したいよ。
「叶斗、ごめん。高井も一緒に良いかな。」
すると高井が叶斗を見つめながら言った。
「岳、俺の事は新で良い。」
叶斗はいつもなら女受けしそうな大きめの垂れ目を尖らせて、大きな声で言った。
「なんだ、せっかく岳と二人で食えると思ったのに。デカいお邪魔虫が居るなんて聞いてなかったんだけど。」
俺は慌てて叶斗に、あの日朝から保健室へ連れて行ってもらった経緯を説明した。すると高井が爽やかな顔で俺に笑いかけながら言った。
「俺も丁度転校してきたばかりだから、特別扱いしない岳みたいな奴と友達になれて良かった。色々案内してくれると嬉しい。」
俺はモゴモゴと返事を誤魔化すと、クラスメイトの視線をこれ以上浴びながら食べても味が分からない気がして、席を立つと二人に言った。
「やっぱり教室で食べるのやめよう。叶斗どっか静かな所知らない?」
叶斗は高井と一緒かよとブツブツ言いながらも、先に立って歩き出した。俺たちが教室を出ると途端にあんなに静かだった教室がわっと騒ついて、俺はますます頭が痛くなった。
しかも、教室を出ても目立つアルファの二人が揃ってる訳だから、注目を浴びまくっている。俺は関係が無い顔をして居たけれど、叶斗が相変わらず俺の肩を組むから逃げようが無かった。
「あー、久しぶりの岳だぁ。俺マジで心配してたんだぜ?でも池ちゃん先生は入院してるって言うしさ。携帯は繋がらないし。…でも大丈夫なの?変な病気だとかないよな?」
変な病気かと言われたら、バース性の変異だから変な病気だろう。言えないけど。言ったら喰われそうじゃない?オメガがあまりにも遠い存在すぎて、イメージしか湧かない俺はハッキリ言ってこれからどうして良いか全然分からない。
「…死んだりする訳じゃないから。ちょっと変わった病気だったみたいだ。でももう大丈夫そう。…多分。」
俺がしどろもどろにそう言うと、隣を歩いていた高井が爽やかに微笑んで言った。
「調子が悪くなったら俺がまた保健室に抱えて行ってやるから。安心しろ。」
うわ…、爽やか過ぎる笑顔だけど、隣の叶斗の手が肩に食い込んで痛ぇ気がする…。もうこいつら俺にまとわりつくのマジで勘弁して欲しい。桂木先生にアルファに気をつけろってあんなに言われたじゃん。こんなに包囲されたら気をつけようがないんだけど。
その時斗叶が立ち止まって教室の扉を開けた。移動教室の空き部屋だ。俺は使ったことがないけど叶斗は選択で使ってるのかもしれない。俺は窓際まで進むと、裏庭を眺めながら言った。
「へぇ。結構穴場だな。ここなら静かに食えそう。」
そう言って二人に振り向いた。ん…。あれ、俺多勢に無勢じゃない?やばい?教室出たの失敗だった?
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