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第21話 修行
「もうすっかり良いのか?あの時はだいぶ酷かったけど。…それにしても驚いたよな。いや、俺も驚いたけど、お前は当事者だもんな。」
そう言って気遣う様な視線を桃李は俺に向けた。流石に伯父さんたちには俺のこの大事件を黙っている訳にいかなかった。というより、知っててもらわないと不都合があった。俺はこれからも山伏の修行は続けたかったし、たとえΩになろうとも続ける事くらいは出来ると思っていたからだ。
父さんは身体が変わったばかりだから、もう少し時間が経ってから山駆けした方が良いってあまり良い顔はしなかったけれど、俺は自分の変化に納得できなくて以前の自分に縋りつきたかったんだ。
とは言え、俺も病み上がりだったから従兄弟の桃李に頼んで軽いルートを一緒に駆けてくれる様に頼んだ。久しぶりの白路山は相変わらず圧倒的な自然の力に満ちていて、俺に畏敬の念と心が満たされる気持ちを湧き上がらせた。
ここに来ると、俺は身体の奥底から息が出来る。学校生活や、家のこと、様々な煩悩はここでは何の役にも立たない。ただ自分の身体の細胞ひとつひとつだけが、全てだった。
走り出してしばらくは、身体の動きがフィットしなかった。けれど次第に吐き出す息と、踏み出す脚のリズムが揃って来て、以前の調子を掴んできた。俺は自然浮かび上がる笑顔を感じながら、笑い出したい気持ちで山を走り抜けた。
キンと冷たい清流から水を掬って飲みながら、俺と桃李は顔を見合わせてハイタッチした。
「岳、悪くない。入院してたなんて思えないな。身体の動きもそこそこだぞ?まぁ完全復帰とはいかないけどね。」
それから俺は高校でコルセットをしてる事や、アルファが二人も同級生にいる事などを話した。桃李は眉を上げて少し考え込んだ。
「それって高井って名前じゃない?高井家って、お前知らない?祓いで有名な。あそこの三男が戻ってきたって親父とじーさんが話してたんだ。結構若い頃飛び出したから戻って来ないと思っていたから、驚いたらしいよ。
高校生の息子が北山に入ったって聞いたから…。そっか、アルファだったのか。今のお前にはちょっと不味い相手だな。」
そう言ってニヤリと笑ったんだ。
俺は肩をすくめてため息をついた。
「俺、大学病院のΩのドクターに言われたんだ。俺はアルファにとっては妙に気になる相手なんだってさ。はっきりオメガだって分からないし、だけど他とも違うって。俺、前とどこか違うのかな?どう思う?」
桃李はじっと俺を見つめてボソッと言った。
「俺はβだから全然。でもお前変わったよ。なんか綺麗になった。オメガってやっぱり綺麗なんだな。お前のこと綺麗だなんて思ったこと無かったけどね。…お前は不本意かもしれなけどな。まぁそんな顔するなよ。人間、綺麗な方が良いだろ?」
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