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第22話 新side山帰りの岳
それは本当に偶然だった。市内のジムでひと汗かいてから一人ワックでバーガーを幾つか食べて、相変わらず周囲の視線を感じながら振り払う様に店を出た。
東京でも見るともなしに注目される事はあったけれど、ここは地方都市で下手すると珍獣扱いのいかにもなアルファの俺は、ひたすら見られるんだ。慣れているとは言えやっぱり疲れる。連む友人もまだ居ないし。
俺は歩きながらスマホで岳に電話した。あいつメッセージはことごとく無視するからな。結局電話も繋がらなくて、相変わらずつれないなと苦笑いした。俺の事をここまで袖にするのって、ほんと経験がない。
ふと目の前に、少し年上に見える綺麗な女の子が近づいてきた。はぁ、Ω女子だ。俺はこの手の女子は苦手だ。いかにも私はΩです、アルファは私の事好きでしょってオーラ出してくる。
東京じゃ、こういう女子は結構馬鹿にされて弄ばれて終わりってパターンなのに、この地方都市じゃまだ有効なのかな。俺は最近飲んでいるΩに対する抑制剤の効きは完璧だと感じながら、つと方向を変えて足を早めた。
下手に関わるのも時間の無駄だ。後ろで何か言ってたけど、俺には関係ない。大きな声で叫び出した気がしてゾッとした。え、怖。俺はますます岳に会いたくなった。あいつは俺の事をアルファとして全然見ない。むしろ嫌がってる。俺を高井 新として真っ直ぐに見てる気がするんだ。
強引な引っ越しのお詫びなのか、親父に買ってもらったお高いオーダー自転車に乗って市内から白路山の麓の家へ向かった。もうすぐ家が見える山道の見える路地に着いた時、岳が一人少し疲れた足取りで山道を下ってくるのが見えた。
その時の俺の気持ちは、なんていうか…。ワクワク?いや、ドキドキ?んー、何かそんな感じ。俺は思わず岳を逃したくなくて自転車を岳に向かって走らせた。
「岳!おい、岳!」
俺の呼びかけに岳が一瞬嫌な顔をしたのが見えて、俺は思わず苦笑した。ほんとあいつは手強い。俺がこんなにアピールしてるのに全然距離が縮まらない。俺はそう思いつつも岳の首にコルセットが無い事に気がついた。
ブレーキ音を響かせて岳の側に自転車を寄せると、岳は少し諦めた様な顔で俺を見つめた。
「…高井。良い自転車だな、それ。」
そう言って俺の自転車を見つめる岳は、興味ありげに俺の愛車を眺めた。少なくとも俺よりは自転車に関心を払ってもらえたみたいだ…。
「もしかして修行してきたのか?俺も市内のジムの帰りなんだ。お前暇なら俺んち遊びに来ない?俺も暇で困ってたからさ。それとも何か約束とかある?」
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