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第23話 高井の誘い

 バッタリ会った高井に俺は有無を言わさず連行されてしまった。何となく高井には恩義があるせいかつっぱねられない。一応家に誰か居るのか尋ねたら、お手伝いさんがいるって言うから、まぁだったら大丈夫かと思ったんだ。  俺は今まで友達の家に遊びに行った事がなくて、従兄弟の桃李の部屋に行く位しか経験が無かった。だからちょっと興味があったというのもある。  バッタリ会った路地の先を家とは反対方向へ15分ほど進むと、長い壁に囲まれた大きな屋敷に着いた。俺の家より大きくて立派な日本家屋は門構えからして違った。陰陽道蛇目と木彫りの看板が掛かっている脇を入ると、大きな日本庭園が広がっていて、立派な錦鯉の泳ぐ池があった。  俺は近づいて金色や赤と白の美しい鯉を眺めた。自転車を片付けて来た高井が何処からか鯉の餌を持って来て、俺に渡してくれた。俺は少しワクワクしながら餌をあげたけれど、バシャバシャと群がってきてちょっと怖かった。  俺の様子を面白そうに眺めていた高井は、母家の離れのそれでも大きめな別宅へ向かうと鍵を取り出して俺を招き入れた。その時俺はまだΩの自覚が足りなかったかもしれない。うかうかとアルファの家に入ってしまったんだから。  確かにお手伝いさんはいた。母屋に。でも離れの別宅には、その時高井と俺しか居なかったんだ。それに気づいたのはずっと後で、俺は呑気にキョロキョロと高井の家を眺めた。  小さな紅葉の築山の中庭を囲った、この字型の洒落たガラス張りの渡り廊下を通った奥のふた部屋が自室らしくて、手前の部屋には机とソファが和モダンな洒落た部屋に配置してあった。奥まったもうひと部屋は寝室らしくて、ベッドが少し開いた襖から見えた。 「岳はいつも暇な時は何してるんだ?」  そう言って自室のミニ冷蔵庫からサイダーを俺に渡して来た。俺はミニ冷蔵庫が羨ましくて自分の部屋にも置けないかじっくり眺めながら答えた。 「俺は時間があれば修行してるからな。平日は勉強してる。特に趣味なんて無いし。後は携帯で音楽聞いたり動画見たりかな。何か俺って面白みが無い人間だな…。」  高井はサイダーを旨そうに飲みながら俺を見つめて言った。 「俺も似たようなものだよ。最近は映画にハマってる。観るか?お勧めのがあるけど。」  そう言いながらロールスクリーンを引き上げると壁面に大きなテレビが現れた。大画面で見たら、俺がいつも見てる動画も楽しいかも。そう思いながら俺は取り留めない話をしながら高井の隣で映画を見始めた。  俺は久しぶりの山駆けで疲れていたみたいで、あっという間に瞼が閉じてきてしまった。帰らなくちゃと思いながら、俺はそのまますっかり眠り込んでしまった。

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