24 / 137

第24話 新side眠る岳

 映画が始まって直ぐに岳は眠り込んでしまった。山駆けの後そのまま家に誘ったせいもあるのかもしれない。そもそも退院明けに修行する岳も無謀だ。  岳が俺に寄りかかって来たのを肩で受け止めた俺は、少し体勢を変えて三人掛けのソファに足を伸ばして斜めに寄りかかると、岳をすっぽりと腕の中へ抱き込んだ。  今までアルファの俺に付き纏う沢山の女や、男もいたけれど、こんな風に抱き込んで起こさない様にしようと思ったことなど無かった。  仄かに感じる岳の体臭は何だか癖になる匂いだった。匂いが強く感じる首筋に鼻を近づければ、狼狽えるような性的衝動を感じて俺はハッと顔を離した。  身体の温かさや岳のしなやかな筋肉を触れている腕から感じると、さっきから岳のことばかり考えている自分に気づいてしまう。くったりとゼンマイが切れた人形の様に眠っている岳は、どこか調子が悪いかと怪しむほどだったけれど、顔色は悪くなかったし規則正しい息遣いだった。  あのバスから保健室へ運んだ時の様に、またこうして近づいている俺と岳の縁に何だか可笑しくなった。この地に来てから妙に接近している。まるで惹きつけられるΩの様に…。岳はβなのは皆が知ってる。岳はβ…。  腕の中で身動きした岳に動揺した俺は、岳が起きてしまって慌てて帰ってしまう事を恐れて、息をするのも控えた。もう一度力を抜いて深い眠りに落ちていく岳が俺の首筋に顔を押し付けるので、嬉しさと興奮を覚えつつも顔を顰めた。  これじゃあ、本当に生殺しってやつじゃないのか?そう思いながらつるりとした横顔をじっと見つめていると、急に大きなため息を吐いて、モゾモゾと動き始めた。  俺は誤解を恐れてパッと腕を離してソファにへばりついたけれど、岳はスリスリと何か探す様に俺の身体の上でうごめいた。俺は息を止めてされるがままにしていたけれど、岳が落ち着いたのはやっぱり俺の顔の側だった。少し首を動かせば唇同士が触れてしまいそうなその距離は、俺を大胆にした。  …迫って来たのは岳だ。俺は首を傾げてそっと岳の赤いぼったりした唇に自分のそれを押し付けた。…ああ、甘い。唇を触れ合わせているだけなのに、俺の本能はもっと貪るようにとせっついてくる。  本人の同意無くこんな事はやってはいけない事なのに、俺の身体も心も岳の唇から離れる事を拒んだ。葛藤を感じていると、寝惚けた岳が甘く呻いて、俺の唇を舌を伸ばして舐め始めた。  驚きで唖然としながらも、それはゾクゾクと甘やかに感じて、本能がドロリと溶け出していく様な欲望を感じさせた。…ああ、もう無理だよ。

ともだちにシェアしよう!