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第27話 高井のキスは甘い
俺の男らしいキスは、僅かに照準を外れて高井の唇の端に強めにヒットした。これがキスならば俺は、唇に感じる痛みと共にあまりキスを良いものだとは思えなくなっただろう。
高井は呆れたように俺を見つめると、薄く微笑んで俺の後頭部を片手で優しく引き寄せた、
それからそっと唇同士を触れ合わせると、何度もそれを繰り返した。俺はこれでもう償いのキスは終わったと思ったのだけれども、高井はそうではなかった様だ。
それから高井の大きな唇が俺の上唇や下唇を何度も押し付けたり、引っ張った。弄ぶようなその仕草に、俺は明らかに熱く焦れ付いたものが身体の奥から沸き上がって来るのを感じた。
何より記憶に残るあの仄かに感じる甘さが俺を欲深くさせたんだ。もっと、この甘さが欲しい。その欲求は果たして自分の理性を簡単に投げ飛ばして、俺は無意識に高井の肩に指を食い込ませた。
高井の甘さに追い縋って、俺は自分から舌を伸ばしてその蜜を受け取りに行った。気がつけば俺の口の中で高井の舌が這い回っていたし、俺は口を大きく開けてそれを向かい入れていたんだ。
ああ、なんて甘美な、気持ち良さなんだろう。俺はすっかり高井に抱き込まれていたけれど、それさえももうどうでも良かった。圧倒的な自分の中の欲求が、目の前のアルファを貪れと命じているんだから。
でもその時、すっかり敏感になった俺の身体が経験のない反応をした。俺は一気に現実に引き戻されて、思い切り高井を突き飛ばすと、ごめんと叫びながら慌てて高井の家から走り出た。俺は感じたことのない恐怖と濡れた下着の気持ち悪さに、何なら泣いていたかもしれない。
ああ、俺はやっぱりオメガになってしまったんだ。あの病院で看護師からレクチャーを受けた際に、そんな事本当にあるのかと疑っていた現象を今、多分経験してしまったのだから。
喉が張り付くほど必死に走って家にたどり着いた俺は、玄関にリュックを投げ捨てると浴室へ篭った。恐る恐る脱いだ下着に粘りつくその粘着物は、明らかに興奮した男のオメガの身体から出る愛液だった。
俺は呆然とその上からシャワーを浴びせながら、呻いた。
俺はアルファの高井とキスして、すっかり興奮させられて俺の中に高井を欲しがってしまった。それはβだった俺にとってはまさに青天の霹靂なんだ。いくら心を誤魔化そうとしたって、身体は誤魔化されてくれないってことだから。
ああ、紛れもなく俺はアルファを欲しがるオメガだ。気に入らなくてもそれが俺だ。
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