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第29話 バスの中の視線

 バスの中で視線が首元に集まってくる気がする。流石にいかにもなネックガードは気になるんだろう。実際俺だって見てしまうと思うし。  しかも俺は華奢でもない、綺麗でもない、いかにもβな男子高校生。そんな俺がネックガードしていたら違和感ありまくりだろう。段々と同じ高校の奴らが乗り込んでくるに従ってヒソヒソと驚きの眼差しと、疑いの眼差しが増えて俺を突き刺す。  ああ、予想より大変なことになりそうだと、ますます気が重くなった。これが冬だったらマフラーで隠すことも出来たのに、進級したばかりのこの季節じゃそれも叶わない。  とは言え、桜も堪能しないうちにいつの間にか5月も半ばになっているのは検査入院で時間がとんでしまったせいだ。俺はやっぱり叶斗に勉強を教えてもらう必要があるかもしれないと、眉を顰めた。  ネックガードをしてる俺がアルファと連むことは良くないだろうな。まして叶斗と高井が、オメガだとはっきりした俺と今後も連む可能性が有るかも分からない。  一年生の時に三年のオメガ女子が叶斗を教室に訪ねて来たことがあった。あの時叶斗は鼻を摘んで苦々しげに言ったんだ。 『発情させて、これ見よがしにアルファに近づくあいつらがマジで嫌いだ。』って。俺にはいまいち意味が分からなかったけれど、叶斗曰くはオメガの発情に抗えないアルファをあえて攻略する様な、タチの悪いオメガが居るのだと吐き捨てる様に言ったっけ。 『あいつらは俺たち自身ではなく、アルファとしてしか見ていない。うんざりする。』って。今の俺もまた、周囲から俺自身ではなく、オメガの男として分類され、珍しげに見つめられている。  そこにどんな感情が乗ろうとも、俺はいわば動物園の人間族オメガ科の柵の中で、大多数のβ達からジロジロ見られるのと何ら変わらないんだ。  俺は多くの人が羨望を込めて叶斗や高井を見ている事実のその裏で、二人がうんざりしているその本質を今本当に理解したんだ。しかも俺はオメガで、アルファとは少し見られ方も違うだろう。  アルファと番うかもしれない羨望?と、発情期のある、周囲を惑わすトラブルメーカー?今まで俺の築いてきた愛想のない、優等生キャラがそこに加わることで、一体どんな作用を起こすのか、俺には全然予測がつかなかった。  そして丁度プシューと言うバスドアの開閉音で、北山高校前の停留所にバスが止まったんだ。…さぁ、戦闘開始だ。

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