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第30話 公開処刑
俺が教室に入ると、いつもの騒ついていた声が段々と静まるのが分かった。俺はガクバンを机のフックに掛けるとスマホを出して桃李にメッセを送った。
『マジでいたたまれない。やばいんだけど。』
昨夜一人でこの状況に立ち向かうのに日和った俺は、弱音を従兄弟の桃李に送っていたんだ。ネックガードをして登校すると言う俺のメッセに直ぐに反応した桃李は、笑いのスタンプと一緒に教室から状況を送れと指示を出してきたんだ。
面白がっている一方で、俺の気を散らしてくれている桃李に地味に感謝してしまった。異様な教室の雰囲気にキョロキョロした相川が、前の席に座って俺の方を振り向いて尋ねた。
「何か様子変じゃ…。」
そう言いながら俺を二度見した。俺が目を合わせると、相川は目を見開いて呟いた。
「…おい、それって。え?どう言うこと?」
相川の声が思いのほか教室内に響いて、俺は良い機会だからと心持ち声を張って答えた。
「ああ、この前体調崩して検査入院してただろ?俺、変異性オメガだったらしい。笑えるよな。」
教室内が水を打ったように静まって、俺の言葉の続きを待っているのか?いや、これ以上話すこと無いし。相川が目を見開いて笑った。
「…マジで。漫画みたいなことあるんだ。え、身体大丈夫なの?」
俺は相川の空気の読めない感じに感謝して、肩をすくめて答えた。
「どうだろ。俺にも良く分かんない。だいたいオメガなんて身近に居ないのに、参考に出来るものが何もないし。」
そう相川と話しているのをクラスメイトが聞いていると言う公開処刑中のその時、目の前の入り口から高井が入って来た。その時の高井は今思い出しても笑える。
「おはよう、岳。…え。それ。…は?」
アルファ様でもそんなに動揺することがあるのかと、きっとクラスメイト全員が思ったに違いない。みんなが高井を見つめる中、池ちゃん先生が相変わらず元気いっぱい入場してきた。クラスを見回して、突っ立ってる高井に席に着くように促すと、チラッと俺を見て微笑んだ。
「ああ、東それつける事にしたのか。いや、先生も早く着けた方が良いなと思っていたから安心だよ。はい、それでは今日の…。」
池ちゃん先生には親から直に連絡してあったので、俺はサラッと話題が終わって息を吐いた。取り敢えず、オメガデビューはまずまずの着地かなと思っていた俺は、やっぱり世間知らずだったのかもしれないな。
これが北山高校始まって以来の喧騒の始まりだったなんて、俺たちは知る由もなかった。
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