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第31話 叶斗は黙っちゃいない

 最初の休み時間にバタバタと廊下を走る音がして、ガラリと扉を開け放ったのは叶斗だった。叶斗は俺をじっと見つめると、何かブツブツ言っていたけれど、満面の笑みを浮かべて叫んだ。 「マジかぁあ!いや、ずっと変だと思ってたんだよ!岳、オメガなんだろ?俺分かってた!くー!神様ありがとう!」  そう馬鹿みたいに叫ぶと、呆然と座っている俺をぎゅっと抱きしめやがった。途端に教室が蜂の巣を突ついた騒ぎになって、俺は俺で馬鹿みたいに抱きつかれて息も止まりそうだった。  俺は山伏で身につけた、護身術の縄抜けの技を使って叶斗から抜け出すと、ガタガタと席を立って後退った。 「叶斗、ちょ、待てって。お前何なの!?いきなり飛びつくの反則だろ?怖いんだけど!」  するとドスンと俺の背中に誰かがぶつかって、両肩を掴まれた。俺は凄く嫌な予感がして、振り返れなかった。目の前の叶斗が急に凄く怖い顔で俺の後ろを睨んでる…。気のせいかあんなに騒がしかった教室がまた静まり返っていた。  俺が当事者でなかったら、こんな見ものは逃せなかっただろう。一人のど平凡なオメガを間に挟んでアルファ様が二人で睨み合ってるとか。滅多にみれるもんじゃないからな。  丁度その時、次の授業の先生が入って来て、叶斗に教室に戻るように促した。叶斗は俺にチラッと視線をよこすと、にっこり笑って小さな声で言った。 「岳、昼休みに話聞かせて。じゃあ迎えに来るから。」  俺はため息をつくと、周囲のクラスメイトを見回した。皆、どうして良いか分からない様子で俺と目を合わせてくれなかった。でも多分俺がそっち側でも同じ反応するだろうと思ったから、別に嫌な気持ちはしなかった。  唯一、相川がニヤリと笑ってボソッと俺に言った。 「東、やばいなお前。二人にロックオンされてんじゃん。クク、ウケる。」  流石に俺は今度は笑えなかった。確かにオメガはアルファを惹きつけるのかもしれないけれど、アイツらオメガの事嫌がってたじゃん。俺はオメガである自分自身のことがよく分からないのに、アイツらの面倒まで見切れないと思った。  それとも俺から何かフェロモンの様なモノが出ていて、アイツらを睨み合いさせるほど混乱させているのだろうか。俺は授業を受けながら、後ろの席の高井を見る勇気は無かったし、何なら昼休みなんて永遠に来なければ良いのにって思ってたんだよ。

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