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第37話 目覚め

 俺は困惑していた。背中の痛みで目が覚めたけど、叶斗が俺の知らないトーンで高井に何か話していた。俺は聞くとも無しに聞いていて、それが俺への気持ちだって気づいてしまった。  今更起きられない。叶斗が俺を好き?去年の夏休みから?言われなくても俺に妙に執着していたのは感じていた。アルファなんてどうでも良いと思ってる俺の側が楽だとは言っていたけれど、好きって…。LOVEの方か?  その時、誰かが机の何かを落として派手な音がした。俺は今はチャンスとばかりに身動きして起きたアピールをした。高井が側に来て俺を覗き込んだ。 「…。大丈夫か?夕飯は食えそう?一応デリバリー頼んだからもうすぐ到着すると思うけど。」  俺は背中の痛みに顔を顰めて言った。 「ああ、大丈夫。あのさ起き上がるの手伝ってもらって良いかな。」  直ぐに身体を支えて貰って、俺はベッドに座った。この経験のある痛みは酷めの打ち身だ。今夜はもしかしたら熱が出るかもしれない。身体を庇って落下したけど、最後の方は力尽きた感があったからな…。  俺がゆっくり体の状態を確認しているのを、二人が黙って見つめていた。俺はふと顔を上げて言った。 「悪いな、なんか付き添って貰っちゃって。高井は家が近所だから良いけど、叶斗は大丈夫なのか?市内だろ?」  叶斗は俺の隣に座ると、にっこり笑って言った。 「大丈夫。家には連絡したから。多分誰か迎えに来てくれる。」  俺はふと垂れ目の柔らかな人好きする顔を見つめて尋ねた。 「誰かって?」  叶斗は嬉しそうに答えた。 「岳が俺にプライベートな事聞くの初めてじゃないかな。俺兄弟の末っ子だからさ、兄貴のどっちかが迎えに来てくれるってさ。岳の家って有名なんだよ。観光業界と山伏のタイアップ考えたの岳のお父さんなんだろ?  うちも会社やってるから、その手の話は話題になるんだ。桃李さんだっけ?岳の従兄弟の。桃李さんの家が山伏の総本家だって、知ってる人は知ってるからね。」  俺は叶斗が俺たちの家のことを案外知っていて驚いた。俺は基本自分から他人に山伏の話をした事が無かった。今回の山駆けの誘いも二人には俺が修行しているのがバレていたせいだ。  俺は案外この二人には気を許してるのかな。そういえば高校の他の同級生に俺の山伏としての一面を教えようなんて思った事が無かった。俺は不思議な気持ちで二人を見つめて言った。 「俺って、お前たちには何か気を許してるのかな。ふふ、オメガの俺がアルファのお前たちに気を許すとか、一番やっちゃいけない事なんじゃないかな。」

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