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第45話 流され体質

 柔らかく俺の舌を甘噛みされて、ゾクゾクと這い上がる焼け付く様な欲求が俺を急きたてる。この甘い何かを、身体がもっと欲しがっている事しか感じられない。  がっちりと身体は抱き込まれて、それも妙に安堵した。不意に遠ざかる甘さに重い瞼をゆるゆると持ち上げると、見たことのない甘やかな表情をした叶斗が、俺に囁いた。 「岳はどうしてそうやって無防備なんだろな…。このまま俺のものにしてしまうのは簡単だけど、それで岳が手に入るとは思えない。あーあ、どうして俺はこんなにも常識人なんだ。でも、そうする価値があるから…。…岳の…だから。」  俺はもう目を開けてられなかった。叶斗に説教されてる気がしたけど、クラクラする意識はトプっとぬるんだ水底へ引っ張り込まれてしまった。でも、気持ちいい…。この安心感。 「岳!おい、いい加減起きろって!」  目の前に叶斗が俺を覗き込んでいる。少し笑い混じりのその表情は発する声のトーンとは別物だ。俺はパチパチと目を瞬いて、案外スッキリした気分で叶斗の腕の中から身を起こした。  空き教室を見渡せば、憮然とした表情の高井が窓辺に寄り掛かってこっちを見てる。 「…あれ、俺寝ちゃった?」  言葉にすれば、それだけじゃない色々なやらかしが浮かび上がってきたけれど、俺は堪えた。ここで動揺して騒いだら不味い気がした。そんな俺を二人が呆れた様に見つめると、授業始まるぞと高井が先に歩き出した。  俺は叶斗に引き起こされて、少しふらつく身体を動かした。ああ、Ωって何なんだろう。αの甘いキスに抵抗できないとかクソみたいなバースだ。それを上回る俺の流されやすさに思い切りガッカリした。  妙に大人しい俺が可笑しかったのか、叶斗は俺の隣を歩きながらクスクスと笑って言った。 「まぁ、キスした俺が言うのもアレだけど、岳にはもうちょっとΩとしての心得の勉強してもらわないと、俺たちもハラハラするからさ。学校では俺たちしかアルファが居ないけど、この狭い地方都市だって市内になればそれなりに居るから。  さっきの話じゃないけど、岳はレア過ぎて俺たちの関心を向けられてるって知っておいた方が良い。だから岳もちょっとは自衛してくれよ?」  俺は叶斗の小言を聞きながら、やっぱり高原先生に頼んでΩレクチャーをしっかり受けた方が良さそうだと改めて思ったんだ。俺は二人が心配そうな顔で俺を見つめるのを感じて、大袈裟に肩をすくめて宣言した。 「分かったって!Ωのレクチャーちゃんと受けてくるから。俺もだいぶ流されやすいのは身をもって感じたからさ。」  二人の顔が同時にニヤッと笑みを浮かべたのが、ほんとその証拠だろ。ああ、面倒だな…。

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