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第46話 Ωレクチャー

 高原医院の個室のテーブルで俺は桂木先生の前に座った。まさか桂木先生が直接Ωレクチャーをしてくれるとは思わなかった。高原先生は僕を案内した際に少し挨拶したけれど、診察があるからと直ぐに出ていった。  桂木先生は相変わらず中性的な優しげな雰囲気で、でもよく観察すると綺麗な男の人なのだと流石の俺も気がついた。そしてネックガード無しで、薬指に結婚指輪をはめている事にも。 「久しぶりだね、岳君。元気そうで何よりだよ。ネックガードもつける様にしたんだね。良かった。流石にコルセットじゃ生活しづらいからね。  さっき高原先生から、最近の血液検査の数値を見せてもらったよ。Ω値も特に変わりないし、他の数値も大丈夫そうだ。岳君に前話したかな。僕は変異Ωの研究をしていて、症例をいくつかデータとして持ってるって。  それと比べると、岳君は変異が始まってかなり短い時間で状態が落ち着いた方なんだ。普通は2~3ヶ月掛かるし、場合によっては一年ぐらい不安定な人もいる。」  俺はどうしてそんなに直ぐに落ち着いたのか尋ねた。すると先生は面白そうに笑った。 「その理由は君が一番知っているんじゃないのかな?高校一年生からアルファの生徒と仲が良かったのが大きかったね。だからゆっくりと身体に負担がないくらいのスピードで変異が行われたんだと思う。  それから変異後に間を置かずαの体液を取り込んだのも良かった。君からアルファのマーキングを感じるよ。…んー、まあ二人ってのはこれからどうするか考えものだけど。」  俺は自分からそんな赤裸々な状況が醸し出されているのかと愕然とした。すると先生はクスクス笑って言った。 「大丈夫。僕は研究者でΩだから細かく感じるだけで、あとはαと、番って無いΩに何となく感じ取れるレベルだから。大した分量じゃないよ。…キス程度だろう?」  そう悪戯っぽく先生に指摘されて、俺は思わず手で顔を覆った。ああ、恥ずかしくて死にたい! 「ふふ、今までβだった岳君には慣れないかもしれないけど、番の居ないΩにとってみたら特定のαにマーキングされるという事がどれだけ心強い事か。他のαに襲われるリスクが減るからね。万全ではないけど。  Ωはただそこに存在するだけで、全てのαにとっての脅威になりかねない。この世界のαという存在は君が思っているより、支配層なんだ。これは世の中の暗黙の了解で、普段は上手く気づかせない様に隠されている。  君はΩにどんなイメージを持っている?魅力的?弱い?アルファの番?…実際はΩというのは支配層のαを強力に混乱させる力があるせいで、αから蔑まれて、疎まれているんだ。それは裏を返せば、彼らが僕らΩを恐れているに他ならない。  だから僕たちΩとαはお互いに早めに番う相手を決めて、影響を与えない様に、与えられない様にするんだよ。だから番のいないαにとっては、君の様な番契約してない若いΩは、近づきたい様な、近づきたくない様な何とも言えない相手なんだ。」

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