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第54話 叶斗side残り香

 「岳君だったかしら。綺麗な子だったわね。」  そう言って俺と夕食後のコーヒーを飲みながら、母さんはカップ越しに俺を伺い見た。俺は母さんが岳の事をどう思ったか興味があったので、敢えて尋ねてみた。 「母さんはΩの友達が多いだろう?岳は変異Ωだから、普通のΩとはやっぱり違う感じする?」  母さんは俺の顔を面白そうに見つめて言った。 「そうね、岳君は何て言うか不思議な感じがするわね。パッと見、綺麗なβといった感じだけど…。でも、何か気になるのよ。違和感?かと言ってΩの儚げな感じもしないし。  叶斗が岳君に執着するのが分かる気がするわ。何て言うか放っておけない可愛さっていうか。」  俺は母親と恋バナをする気はなかったけど、変異Ωの岳への感じ方は興味深かった。部屋に戻った俺は、高一の頃に岳と一緒に無理やり撮ったスマホの中の画像を見つめた。  そこには愛想も何も無い顔をした岳が俺に絡まれて一緒に画像に入っている。俺がこの画像をみて岳がΩなんじゃないかと疑ったんだ。今と同一人物かと言われたら、どうだろうと首を傾げる岳がそこに写っていた。  今と違って、そこには険しい顔の隙のなさそうなβの男が写っていた。俺は今日この部屋に居た岳を思い出した。あいつ、確実にやわらかい表情になった。昔は人を寄せ付けなかったけれど、今はそうでもない。そして綺麗になった。  Ωホルモン値が上がると、肌のキメも良くなって色も白くなるって聞いたことはあったけれど、あの岳の潤んだ瞳が俺の身体を熱くさせるんだ。今も部屋に岳の甘い香りが漂っていた。  俺は岳の切羽詰まった言葉、濡れてしまうという叫びを思い出して思わず一人で笑ってしまった。ほんと可愛いんだから。でも、そうなると俺たちは岳とキスしか出来ないって事になる。  俺はため息を吐いてベッドに寝転がった。女にも男にも苦労しない俺が、たった一人の男に振り回されている。それは何だか笑ってしまう様な、胸の奥が疼いてくる様な、何とも表現しずらい気持ちだった。  そうは言っても、俺だって18歳の若い身体を持った男だ。何とか先に進まないと、無理矢理押し倒すことになりかねない。キスしてる最中の蕩けた岳が、あの耳を騒つかせる甘い声で俺を欲しがって強請ってくれたらいいのに…。  俺は自分の逸物が兆し始めたのを感じて、股間に目をやりながら呟いた。 「お前も想像力だけじゃ限界があるよな?」

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