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第56話 アカウント名は山伏のY

 Ω男子のチャットトークのアカウント名は岳のGにしようかと思ったけれど、それじゃ危ない気がして、山伏のYにした。流石に山伏なんて誰も思いつかないだろう。俺は山伏が絶滅危惧種だって事は自覚していたんだ。  入室しましたとクローバーマークが浮き出る。  直ぐに[こんにちわ]と幾つかの挨拶が返ってきた。俺は18でΩの初歩的な質問をするのは絶対怪しまれると思ったので、自称14歳で登録した。はぁ、何が悲しくて年齢詐称、しかも中坊にならなきゃいけないんだと思ったけれど、背に腹は変えられない。  [Y初めましてだよね?簡単に自己紹介よろしく。*ケン]  俺はケンからの質問に用意しておいた答えを打ち込んだ。  [初めまして。僕はY、中学二年生です。バース判定でΩと出ましたが、身体がどう変わるのか分からなくて不安です。特に後ろが濡れるとか怖いです。]  どうだ。聞きたい事をダイレクトに質問してやったぞ。俺は自信満々に答えを待った。しばらく待っているとピコンピコンと立て続けに返事が来た。  [結構うぶなんだね、Yは。バース判定前に後ろが濡れることくらい無かった?*ケン]  [初めまして。僕ニック。その頃はエッチな事考えると急に濡れたりするからめんどいよね。経験積めば、ちょっとやそっとじゃ濡れなくなるよ。*ニック]  俺は眉を顰めて画面を睨みつけた。そっか、経験か。でも一体どんな?  [ケンさん、ニックさんお返事ありがとうございます。…あの、経験ってどんな経験を言うのでしょうか。人前で服が汚れるのが怖くて、一番の悩みなんです。]  俺はまた画面を見つめて返事を待った。すると、すぐに返事がピコンと来た。  [初めまして。BDだよ。中2なんだよね。高校生のαに頼んで開通してもらったら?セフレっていうと語弊があるけど、ある程度身体が慣れると色々コントロール出来るよ。中学生のαはやめた方がいいよ。まだ未熟で噛まれると怖いから。友達で同級生に噛まれそうになった子いたよ。]  それから画面はその手の危ない目にあった話がピコンピコンと流れてきた。気がつけばトークルームは七人ほどのアカウントが話をしていて、俺は呆然と流れてくる会話を見つめていた。  結局俺は、濡れるのが嫌なら経験を積まないといけないという結論を手に入れた。それが良いか悪いかは不明だけど。ふとトークルームの内容が変わったことに気がついた。  [ねぇ、変異Ωの噂知ってる?地方都市で一人出たらしいよ。しかも18歳。変異って遅いんだね。でもβだったのにΩに変わるとかどうなんだろうね?ゴツいんじゃないのかな?僕は今17でエステにも行ってるし、自己管理はばっちりだけど、βっぽいΩってアルファに需要あるのかな。www*ケン]  俺はドキッとしてケンのトークを凝視した。これって俺のことじゃないのか?しかも何気に悪口言われてる…。

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