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第61話 やる気満々は誰?

高井が先にバスから降りて行くのを叶斗と見送りながら、俺はもう何だか疲れてしまっていた。 「高井が来るまで、俺たち二人でイチャイチャ出来るな。」  そう言って機嫌良く俺の耳元にキスしてくる。確かにバスの中はすっかりひと気が無くなったけれど、まだ数人乗っている。流石に俺も居た堪れなくて、両手で叶斗の顔を押し退けた。 「ステイ!」  叶斗の家でドーベルマンのジョンと遊んだ時に覚えた躾用の言葉だ。途端に叶斗は嫌な顔をして俺を胡乱な眼差しで見つめた。 「岳、酷い…。ジョンと同じ扱いだなんて!」  丁度その時、バス停に到達して、これ幸いと俺は逃げる様に降りた。 「まったく。良くそれでエッチしようなんて誘ったよ。」  そうボヤキが止まらない叶斗に、俺は肩をすくめて手を繋いだ。途端に分かりやすくご機嫌になる叶斗は、やっぱりジョンレベルなんじゃないのかなと思ったのは内緒だ。  家の前に、高井も先に自転車で到着していた。まったくどうしてこんなにやる気満々なんだ。俺はもしかして早まったのかもしれない。大体アルファ二人同時にってエロゲーじゃ無いのに…。  そうは言っても、いつもこの二人が俺に付き纏っているから、どちらか一方に頼むと言うのも角が立ちまくる。今後の生活に支障が出そうな気がする。俺は何が正解だったか分からずに、玄関の鍵を開けると二人を家に入れた。  背後で玄関の鍵がガチャリと閉まる音がして、逃げ道を塞がれた気がして俺の顔が引き攣っていたんだろう。そんな俺に叶斗がぎゅっと抱き寄せて甘い声で言った。 「大丈夫。優しくするから。あー、岳可愛い過ぎる!」  居た堪れない。本当に何で俺こいつらにエッチしようなんて言ったんだろう。 「…あのさ、どうするの?誘っておいてアレだけど、二人と同時になんて無理でしょ。」  すると叶斗と高井が顔を見合わせて、同時にニタリと笑って、高井が真面目な顔に戻して言った。 「全然無理じゃない。どっちみち多分岳は、訳わからなくなっちゃうと思うから大丈夫。」  いや、そんな事聞いて全然大丈夫な気がしない。でも俺は覚悟を決めたんだ。ズボンを濡らすより、こいつらと一発やった方が多分マシだ。多分…。 「じゃあ、早速エッチするか。俺の部屋こっち。」  何だか後ろの二人が静かなので振り返ると、なぜか二人して顔を顰めていた。そして叶斗がため息をついてしみじみと言った。 「岳って本当そう言うところだよ。男らしいって言うか、色気がないって言うか。でもちょっとキスしただけで、グズグズになっちゃうんだから、ギャップ萌えって言うのかなぁ。」

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