69 / 137
第69話 新side可愛い岳
俺たちは余計なことを言わずに、岳のベッドを整えると、ベッドの側のテーブルにキッチンから取ってきた菓子パンや飲み物を用意すると、もうトロンと眠ってしまいそうな岳に見送られて家を出た。
玄関の鍵が閉まる音と、電気が消えるのを二人で見守った後、俺たちは俺の家へ向かって歩き出した。途端にクスクスと叶斗の笑い声がして、俺もまたため息をついた。
「ね、このまま岳には勘違いさせておこうよ。経験したからって、濡れなくなるなんて事ないのにね。どうしてそう思ったのかな。」
俺は岳は頭が良いのに抜けた所があるのが、本当に可愛いと思いながら呟いた。
「まぁ、経験豊富なら、簡単に濡れなくなるってことを適当に解釈したんだろうな。そもそも、岳はΩの身体を持て余してるから。だからといって急にエッチしようとか、本当思考がぶっ飛んでる。」
叶斗はまだ笑いが止まらない様で、柔らかな声で呟いた。
「岳はさ、基本あんまり他人と交わらないっていうか。別に人嫌いって訳でもないと思うんだけど、山伏の性なのかな。修行第一で、自分を見つめる事に忙しくて世の中の事をよく知らないんだよ。
そんな所が俺は一緒にいて凄い楽だったし、癒された。でも本当ぶっ飛んでる。ふふふ。…なぁ、変異Ωって、ちょっと普通のΩとは違う気がしたんだけど。高井はどう思った?」
俺は叶斗の言う意味が分かる気がした。岳と身体を交わした時の、あの何とも言えない焦燥感。恥ずかしくなるほど余裕が無かった。
「お前見物してたろ。俺が余裕なかったのは見てて分かっただろうが。あれは自分でも驚いたくらいだ。何がどうって上手く説明できないけど、俺多分、岳に強請られたら永遠に出来そう。」
叶斗は前を見ながら何か考えていた。ひと気のない夜道で、しばらく歩く音しかしなかったけれど、叶斗が言った。
「取り敢えず、番だ云々は置いておいて、これ以上岳にアルファを近づけない様にしないと。多分変異Ωは特別だ。岳を味わったら、他のΩじゃ我慢できない。…幸いにも岳は、いわゆる体力の無い繊細なΩじゃないから。俺たち二人の相手をするのにそこまで辛すぎるって事もないだろうし。
まぁ、また直ぐに泣きついてくる様に、エロいチュウいっぱいしてやらないとね?」
そう言って嬉しそうに笑う叶斗は、芸能人の様な甘いマスクを綻ばせていたけど、結構腹黒いんだなと俺は呆れた気持ちで、今は共同戦線を張っているαの男を眺めた。
ともだちにシェアしよう!

