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第70話 眩しい朝
俺は今、清々しい気分で朝を楽しんでいた。少し早起きした今朝は、白路山を駆けるほどの時間はなかったものの、山の入り口まで走って行くくらいの時間はあった。
白路山入り口の、現世と修行場との境目にある大きな杉の木に巻き付けられたしめ縄の結界が、神聖な場所なのだと見せつける様だ。俺は白路山の奥道へと向かって、手を合わせてお参りすると踵を返して家に向かって歩き始めた。
やっぱりもっと山へ来ないと身体が鈍りがちなのは、バースが変わったせいかもしれないと、少しため息をつきながらも、気持ちの良い空気と眩しい朝日に心は浮き立った。
あれから、高校でも濡れることはなくなった。時々、昼休みに実験と称して自分からキスを強請ってみたけれど、全然平気だった。相変わらず甘くて美味しかったけれど。
叶斗も新も、そんなご機嫌な俺をなんとも言えない顔で見るので、何か言いたい事があるのかと聞くけれど、別に何でもないと歯切れが悪い。
とにかく俺の日常はβだった以前の様に平穏な毎日が繰り返されている。こんな日々が手をすり抜けていった時はどうなるかと思ったけれど、もう一度手にしたからには二度と手放す気はないのだ。そんな気持ちで山を降りて行くと、伯父さんの家の広い駐車場で、桃李がストレッチをしていた。
「おはよう、桃李。」
俺が道から声を掛けると、後ろを向いていた桃李はこちらへ首を向けて挨拶をすると、マジマジと俺を見つめた。そしてこっちまで歩いてくると、腕を組んで首を傾げた。
「はぁ、お前ってやっぱりΩになったんだな。こうして久しぶりに顔を見ると明らかに以前とは違うって良く分かるよ。何て言うか肌も以前より透明感?があるし、何だろ、オーラ?おい、そんな顔するなよ。褒めてるんだから。」
俺は爽やかな気持ちもあっという間に萎れて、眉を顰めてボヤいた。
「桃李、俺は肌に透明感なんて欲しくないし、前と同じように、他人がうかうかと寄ってこないような人間になりたいんだ。」
すると桃李は面白そうに笑って言った。
「大丈夫だ。その願いは叶ってるから。残念ながら肌も綺麗だし、顔もますます美人になったけど、誰でもお前に近寄っていけるようなオーラじゃないからな。少なくともβは声を掛ける勇気はないよ。俺も従兄弟じゃなければ、チラチラ見て終わりにしてるから。ク、ブフフッ!」
こいつ他人事だと思って凄い面白がってやがる。くそ。俺は桃李の笑い混じりの謝罪を背中に聞きながら、ムカムカしながら家に戻って行った。せっかくの晴れ晴れした気持ちも台無しだった。
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