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第71話 朝も電話

 俺がぷりぷりしながら家に戻ると、父さんが誰かと電話をしている様だった。こんな朝早くから珍しいなと思いながら、俺は浴室で汗を流して、腰にタオルを巻き付けてリビングへと顔を出した。 「父さん、誰から?」  俺は何の気なしに尋ねながら、冷蔵庫から牛乳をグラスに汲むと一気に飲み干した。飲み終わるのを待っていた様に、父さんが躊躇いがちに話しかけてきた。 「岳、さっき桃李に会っただろう?」  俺は電話の相手は桃李だったのかと思って、何か用事があったのかなと思いながら振り向いた。父さんは俺の方を見ていたけれど、俺の顔は見ていなかった。俺の全身をジロジロと眉間に皺を寄せて見ていた。 「…うーん。私にはちょっと分からないな。お前今日学校から帰ってきたら、伯父さん家に顔を出しなさい。ちょっと伯父さんに観てもらう必要があるらしい。」  俺も伊達に山伏の修行をしているわけじゃない。伯父さんに観てもらう、それはすなわち何か俺に憑いてるという事なのか?俺が強張った顔で父さんを見返すと、父さんは言った。 「いや、さっき桃李から電話が来て、お前と別れて後ろ姿を見送っていたら、何かが巻きついて見えたらしくて。多分蛇的なものか…。それが良いか悪いかは不明だけど、一度伯父さんに観てもらった方がいいって話になってな。お前も訳がわからないのは気持ち悪いだろう?」  俺はゾッとしてしまった。え、俺に何か巻き付いてるの!?怖。もちろん俺は山伏なので、この手の話はそこそこ普通の人間よりは見聞きしている。でも自分に降りかかるとなると不安が押し寄せてきた。 「父さん!九字切りしてよ!」  すると父さんは困った様に頭を掻いて言った。 「さっきお前が牛乳飲んでいる時にこっそりしたんだが、効果があったかどうか、俺にはわからん。兄さんほどの力は無いからな。ま、桃李くんもそれ自体は新しいものでは無いらしいから、今まで悪さしてなければ、大丈夫だって言ってたぞ。本当あそこの親子は山伏らしいよなぁ。」  俺は感心しきりの父さんには頼れないと、ため息をついて手早く身支度をすると学校へと向かった。いつもの様に新が迎えに来てくれていたけれど、俺の口数が少ないのに気づいて、心配そうに尋ねてきた。 「どうした?岳。何か元気ないな。何か心配事でもあるみたいだけど。」  俺はこいつに言ってもしょうがないと、なんでもないと生返事をして学校へ向かったんだ。

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