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第75話 部屋篭ればやっぱり
新の珍しい姿を見た後は、離れに移動した。久しぶりに来た別宅の新の部屋は和洋折衷の洒落た部屋だ。以前ここでうっかり眠りこけて、新を襲った記憶が浮かんできて何となく居心地が悪くなった。
そんな俺には構わずに、叶斗は物珍しげに部屋のあちこちを眺めて言った。
「へぇ、何か陰陽道の家って感じだな。庭もすげぇけど、日本人て感じでこれはこれで落ち着くな。」
俺たちは居候だけどなと、新は笑った。そう言えば新は、東京に住んでたんだと思い出して尋ねた。
「新はこっちに来る前は東京住みだっただろ?家はまだあっちにあるのか?」
新はミニ冷蔵庫から三人分の炭酸を出しながら頷いて言った。
「ああ、住んでたマンションならそのままだ。一軒家に住んでたんだけど、親が離婚してから結構便の良い駅に引っ越したんだ。父さんが向こうでやってた仕事、まだ一部やってるから時々使ってるみたいだ。俺も夏休みになったら大学見学も兼ねて泊まりに行くと思う。…岳も一緒に行くか?」
俺は急に自分に話題が移って、キョトンとしてしまった。確かに俺たちは高3で進学先もそろそろ本気で考えなくちゃいけない。俺は地元の国立大学に行くことしか考えてなかったから、そう新に聞かれて、一瞬言葉を失った。
「え~ずるい!新様、俺様も泊めてよ。」
叶斗がクネクネしながら新に迫っているのを、俺は笑いながらも時間の経過を感じていた。俺は新学期早々、変異Ω騒動で日々を追われてきたきたけれど、そればかりじゃいられないって。
「俺の第一志望は地元だけどな…。まぁ東京の大学も一応視野には入れないといけないし。その時はよろしく。」
すると新はニンマリと笑って、俺を抱き寄せて言った。
「ああ、よろしくされる。岳と二人だけでマンション住みか。何か滾る…。」
俺は身の危険を察知して仰け反ったけれど、ガタイの良い新に叶うわけなくて、あっという間に口を塞がれてしまっていた。自分でもアレだけど、俺はアルファの、こいつらにキスされると途端に抗う気力が失われてしまう。
口内を這い回る甘い新の舌に、俺は無意識に縋り付いていて、喉から出る甘える様なうめき声に少しだけ我に返った。
「何で…。急にキスとか。」
すると新は甘やかす様な柔らかな低い声で囁いた。
「濡れない様に、時々練習しなくちゃ…。だろ?」
俺は、自分でもそんなのが、ていの良い言い訳だって分かってたけど、新のくれる甘いキスがほしくて目を閉じて言った。
「そうだな…。練習しなくちゃ。」
そんな俺たちを呆れ顔で叶斗が見てたのは、全然気が付かなかった。
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