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第86話 個別相談

 俺は各ブースに大学関係者が並んでいるのを眺めていた。こうしていても仕方がないのは分かるが、どこの大学に行きたいかも考えていないのに、選びようがなかった。  叶斗と新は、俺の必死の断りで保護者面で付いてくるのを阻止したので、俺は一人でΩ事情を聞ける筈だ。俺が迷っていると、OBらしき説明会主催者が近づいてきた。  一目でアルファと分かるその人は、少し迷った様に俺をじっと見つめた。 「…君って、あ、すみません。ぶしつけだったね。私はこの説明会を学校から頼まれて企画した会社の者です。」  そう言って胸元のプレートを俺に見せた。そこにはグレイ企画の灰原とあった。 「何か聞きたいことがあるのに、どこに行けば良いかわからない感じ?何かお手伝い出来るかな?」  俺はここで突っ立っていてもしょうがないと、20代半ばに見える、目の前の灰原さんに尋ねた。 「Ωが通い易い大学は何処ですか?」  灰原さんはハッとして、もう一度僕を見つめると、急にさっきよりも堅苦しい態度を緩めて言った。 「…君はΩなんだね。さっきチラッとそんな感じがしたんだけど、でもやっぱり違うかなって迷っちゃって。ごめんね、失礼だったかな?でも何て言うか不思議な感じ。君みたいなΩには会ったことないから。」  そう言いながら近くのテーブルに置いてあったブースマップのいくつかに、丸と二重丸を赤ペンで書いて、俺に手渡した。そして二重丸の大学は特におすすめで、俺が困る様な事はほぼ無いだろうって教えてくれた。  俺は礼を言ってその大学のブースへと行こうとした時、灰原さんは俺を呼び止めた。 「…普段はこんな事しないんだけど。何か困ったことがあったら、何でも相談して。君の様な子は、きっと大学行ったら大変なことになりそうな気がするよ。」  そう言って俺に、その場で裏側に何か書いた名刺を渡してきた。俺は戸惑いながらも、挨拶をして受け取るとブースへと向かった。  各ブースの大学のスタッフは、丁寧にΩ対応について教えてくれた。対応のあれこれを聞いているだけで、それだけΩの周囲への、特にアルファへの影響力が深いのだと気がついた。ある意味俺たちΩは危険人物なんだ。  俺は大学への期待感よりも、進学後の面倒臭さに何だかゲンナリした気分で、叶斗達のいるOBの座談会会場へと向かった。すると、さっきの灰原さんが、ブース会場から俺を追いかけてきて言った。 「あの、君!名前教えてくれないか?」

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