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第87話 東京のアルファ

 俺に名前を聞いて来たグレイ企画の灰原さんは、何を考えているのか分からない表情で俺を見つめた。単なる受験生の俺を気に掛ける灰原さんに、俺は戸惑って一瞬返事が遅れた。すると、灰原さんは苦笑して言った。 「いや、私は別に怪しい人間では無いよ。でも、そうだね。Ωの君にとっては怪しいアルファになるのかな?」  俺は灰原さんに心を見透かされた気がして、慌てた。 「いえ、そんな事はない…ような、あるような?」  すると灰原さんはクスクスと笑って僕に近づいて来た。 「ふ。君って正直だね。…私は君がもしかして、今東京で噂になってる変異Ωなのかなと思ったんだ。でも、君を見ていると、それ意外には思えなくなるな。君はβの中じゃ何だか人目を引く。かと言って、Ωだと言われると納得するんだけど違和感があるし。」  俺は灰原さんを睨んで言った。 「まるで俺を珍獣の様に言うんですね。」  すると灰原さんは、微笑んで言った。 「じゃあ、やっぱり君が変異Ωなんだね。」  俺はハッと我に返った。灰原さんは推測を言ったまでで、俺が変異Ωだとは言ってなかったって。俺は自分からカミングアウトしてしまったらしい。引き攣った俺に灰原さんはもっと近づいて、アルファらしい人を惹きつける笑顔を見せて言った。 「私は君に、とっても興味が湧いたよ。名前を教えてくれる?」  俺はジロリと灰原さんを睨んで言った。 「俺に鎌をかける様な小狡い相手に、名前を教えるのは嫌です。僕はあなたに興味ありませんし。でも、あなたは俺の名前など簡単に調べてしまうんでしょ?俺は東 岳です。もう話はないでしょ。さよなら。」  そう言って踵を返すと、俺は一瞬で腕を掴まれた。思わず反射で山伏で培った潜り抜けをして、灰原さんを後ろ手で押さえ込んだ。 「イタ、イタタッ。」  流石にガタイの良いアルファと言えども、背中に腕を押さえ込まれたら何も出来ない。俺は灰原さんの耳元に息を吹きかけて囁いた。 「勝手に人の腕を掴んで良いなんて誰が言った?まったくアルファは傲慢で困る。だから俺はアイツらしか信用できないんだ。」  そう言うと、ポカンとしている灰原さんに背を向けて手を振って立ち去った。でも一瞬、近づいた時に灰原さんのアルファのフェロモンを感じてゾクゾクしてしまった。俺ってアルファなら誰でも良いのかな…。はぁ。  OB説明会場で叶斗と新の顔を見て、妙にホッとしたのはアイツらに内緒だ。

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