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第103話 新side俺たちの事情
シャワーを浴びに行った岳を見送りながら、俺と叶斗は黙りこくっていた。さっき岳に突きつけられたのは、俺たちが見ないようにしていた現実かもしれない。岳は一人で現実的で、冷静だった。
「さっき岳が言ったこと、叶斗はどう考えてるんだ?お前のところは会社もやってるし、跡継ぎだろう?」
叶斗はしばらく黙っていたけれど、ため息をつきながら自分に言い聞かせるように言った。
「俺が跡を後を継ぐのはその通りだけどね。別に無理して子供を作る必要はないんだ。姉が二人居るし、上の姉さんには子供が三人いるし。誰か適正のある甥っ子か、姪っ子が俺の跡を継げば良い。
問題はそこじゃない。発情期が来てない岳なら問題がなくても、発情期が来てしまったら、やっぱり番うのが正解だと思うんだ。次女の姉さんはΩで、発情期を重ねる度に症状が酷くなって、抑制剤の副作用も酷くて苦しそうだった。
番うって事は、実際Ωの身体のためにも必要な事なんだよ。」
俺はソファに寄り掛かって呟いた。
「そっか。俺はそもそもひとりっ子で、親も離婚してるだろ?そこら辺は実感が無いな。だけど、叶斗の話はリアリティがあるよ。…いつかは岳も誰か一人と番うって事だよな。発情期が来たら。そうなると発情期、来なくても良い気がしてきた。なんてな。」
叶斗は肩をすくめて俺の斜め横のソファにドカリと座ると、オットマンに足を載せて呟いた。
「岳って、何であんなに冷静なんだろ。もし俺が急にΩになったら、あんなに飄々とはしてられないと思うぜ。図太いというか。まぁ、元々高校入った頃から、他人なんて眼中にないって感じだったからな。もう、性格なんだろうけど。」
俺はクスッと笑って、さっきの岳の言い草を思い出しながら言った。
「…岳は変異Ωの前に、山伏なんじゃねぇ?常に修行で自分を律する訳だから。子供の頃から習慣付いているだろ?俺たちはΩの岳というより、山伏の岳が好きなのかもしれないな。一本筋が通っていて、一緒に居ると気持ちいいだろ?」
すると叶斗はニヤリと口元を緩めて言った。
「そうかもな。いや、そうだな。俺は岳の滝行の姿に欲情して自分の気持ちに気づいたからな。その時はまるっきりβだったし。そう考えるとさ、岳がΩだとかは副産物であって、番うとかは自然に任せれば良いのかな。俺たち色々決めるのはまだ早いし、若いだろ?」
俺も叶斗も、同じ様に岳を大事に思っているのは間違いなかった。そしてアルファとオメガの関係が番という鎖で縛り付けられる様な関係だと知っていてもなお、若い俺たちにまだどうするべきかなんて分からなかったんだ。
アルファなのに色々ままならないのは、ほんと岳のせいなんだけど、だからといって手離す事など出来はしない。それだけは、今の俺たちの目の前に横たわる真実だった。
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