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★東京遠征2★ 第104話 タダ飯と買い物

 一応午前中に二箇所を回ったものの、すっかオープンキャンパス巡りはもう良いだろうという空気になった俺たちは、叶斗の提供するタダ飯の店へと足を向けた。  ご機嫌な叶斗は俺の手を繋いで、意気揚々と俺たちを連れ回している。俺は叶斗の横顔を見ながら、昨日俺が話した事について、何も言って来ない事に戸惑っていた。  ずっと俺が気になっていた事、発情期が来るかどうかも分からない事、番う事、それは二人に大事にされればされるだけ、避けては通れない話題だった。  丁度良い機会だから、話すだけ話して逃げる様にシャワー浴びに逃げてしまったんだけど…。シャワーから出ても、二人とも全然何も無かったように俺に変わらない態度だ。  俺は結局、狡く立ち回っているのかもしれない。実際発情期なんて来なければ良いと思ってるし、βの生活にも戻れるのなら戻りたい。覆った身体の成分は戻ることなんて無理だけど。  身体はすっかりアルファの甘い味を覚えてしまったし、それこそアルファ無しで生きていけるのかと言ったら、生きていけないだろう。その相手が誰でも良いのかどうなのか、それさえも自分でははっきりしない。  心を許したこいつら二人だから一緒に居るのか、それとも慣れたら誰でも良いのか。それこそ灰原さんの様に。その結論を、どこかこいつらに決めさせようとしてるんだ。  しかもどちらか一人に絞る?どうやって決めるんだ、そんな事。比べようがない。俺は考えても堂々巡りになるあれこれを放り出す事にしたんだ。 「何?さっきのイタリアン美味しくなかった?」  そう言って、俺の顔を覗き込む叶斗に、俺は不貞腐れて言った。 「美味しくないわけないじゃん。あんな肩肘張らずに、クソうまいイタリアン食べさせてくれる店に連れて行ってもらってさ。そうじゃなくて、叶斗と新がいつも通りだから、何か調子狂ってるわけ。」  すると半歩前を歩いていた新が俺を振り返って笑って言った。 「何だそれ。褒めてんのか、文句言ってんのかどっちなんだ。俺たちはいつも通りだよ。岳がどう考えようと、今の俺たちに岳の側を離れるっていう選択肢は無いからなぁ。まぁ、あんまり深刻にならずに今まで通りで行こうぜ?…先の事は、なる様になるだろうからさ。」  そう言うと、叶斗に何処の洋服屋に行きたいのか訊いていた。俺はそんな二人を眺めて、このまましばらく居心地の良い俺たちの関係が続く事をありがたく思った。ああ、俺は案外二人に依存してるのかもしれないな。

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