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第105話 予兆

 昨日の夜の疲れが出ているのか、午後に買い物をしている時から、立ちくらみを感じた。 「…岳?何か顔色悪い?」  そう言って覗き込む叶斗に、俺は顔を顰めて言った。 「お前たちが昨日やらかし過ぎなんだよ。全く手加減しないから…。」  そう言ったものの、自分でも自覚出来るくらい体調が悪くなって来たみたいだ。でも、俺は山伏なのに。修行した強い身体と精神があるのに。そう思いながら、二人よりひと足先にショップの階段を降りた拍子に、俺は人形の様にガクンと膝から崩れ落ちた。  誰かに抱き止められた感触はしたけれど、そこから俺は視界が真っ暗になって何も感じなくなった。  酷く怠い気分で目を覚ました俺は、間接照明がぼんやりと天井を照らしている光景を見つめた。新のマンションでもないこの場所は一体何処なんだろう。そう思って周囲を見回すと、どうもここは病室の様だった。そう言えば、ショップを出た時に気分が悪くなって力が抜けた感じがしたんだ。  今も、やっぱり目を閉じてもふわふわする感じだ。何だこれ。頑張って目を開けると、腕に点滴の様なものが付いていた。ああ、どうしたんだ、俺。  しばらくすると、部屋の扉が電子音を立てて開いた。看護師らしき白衣を着た女性が、ベッドサイドまで寄って来た。俺が目を開けているのを見ると、にっこりと微笑んで言った。 「東さん、お目覚めになりましたか?急に意識を無くして倒れたんですよ。もうすぐ、桂木先生が診に来られますから、その時に説明されると思いますから、もう少しお待ち下さいね。」  俺は連れの二人はどうしたのかと尋ねようとしたけれど、口を開くのも怠かった。俺は諦めて、看護師が俺の点滴を調整するのを見るともなしにぼんやり見つめた。  忙しそうに部屋を出ていく看護師を見送りながら、部屋のドアがまた電子音を立てて閉まった。俺はその時、この部屋が妙に厳重に管理されてる事に気がついた。部屋に鍵が掛かってる?  耳をすませばさっきは聞こえなかった電子音も聞こえて来て、やはり俺は桂木先生の大学病院に運び込まれた様だった。この怠さは、そう言えばあの時に近いかもしれない。俺がβからΩに変異したあの時に少し感じが似ている。また、何かΩ関連の症状が出たんだろうか。  そう思っていると、部屋の外に数人の気配がして、電子音と共に部屋の扉が開いた。足元の方を見ていると、壁の角から桂木先生と、もう二人のドクターらしき人達が入って来た。 「やぁ、目が覚めたかい?薬が効いたみたいだね。とは言え、まだ不安定で身体が辛いかもしれないけれど。岳くん、君、発情期が来そうなんだ。ちょっと普通のΩとは違う症状だったから、僕たちもちょっと慌てちゃったよ。」  桂木先生は俺の方を見つめると、そう言って優しく微笑んだ。

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